バリカタ

スープとイデオロギーのバリカタのレビュー・感想・評価

スープとイデオロギー(2021年製作の映画)
4.5
人生に寄り添い魂を受け継ぐ

これから鑑賞される方は「済州島 4.3事件」について事前に、何があったか?なぜ起こったか?は知っておいた方が良いと思います。

本作は主人公の娘である監督自身が、オモニ(母)の人生や心情(イデオロギーの部分ですかねぇ)の理解を深め、愛情を深くしていく(ように見えるんですけどね)様を描きつつ、悲しい歴史の当事者であるオモニの姿を通して忘れてはいけない事件を再認識させる良ドキュメンタリーだと思います。
「帰省して3日目には喧嘩する」と言っていた監督の心情の変化はとても興味深いものです。もちろんご自身の私生活環境の変化も相まって・・・だと思います。ですが、「寄り添い理解を深める」ということはこの監督親子だけの話ではなく、悲しい歴史に対する現代の社会と同じではないだろうか?なんて思いました。

さて、オモニの理解を深めていく上で重要な「済州島 4.3事件」。
なんとなく知ってはいましたが、その凄惨さや韓国政府の対応内容は知りませんでしたし(まぁ、興味が薄かったってことですよね、残念ながら)、もちろん当事者の方のお話なども見聞きすることはありませんでした。人間の思想や考え方自体に影響を与えるよなぁと納得するほどの大事件です。「それしか選択肢がない」「心を保つにはそれしかない」なんて・・・とっても悲しいことです。このような想いを抱えている(抱えていた)人々が一体どれだけいたのだろう?クライマックスの墓地のシーンは圧倒的な悲しみで胸が締め付けられました。

美味しそうなスープ(参鶏湯ですよね?)は朝鮮を代表する料理です(諸説あるみたいですが)。もしかしたらソウルフードと言って良いのかも?料理のレシピだけでなく、過去も語り継がれ風化させてはいけない、継承されていくべきと思います。良いもの悪いもの一緒に。少なくともオモニのイデオロギーの根源となったことは無かったことにしてはいけないと思うのです。それは、作品の後半にオモニに訪れるある体調の事象を見てさらに強く思いました。オモニは新しい世代に継承したんだなぁって、バトンを渡したんだろうなぁって。慰霊祭に参加するオモニの悲しみと安堵が入り混じるような表情を見ているとそう思わざるを得ないのです。だって、本当によくぞ生き抜いた!って思いますもん。お疲れ様でした、あとは任せてください!って言いたくなります。韓国は大統領が変わりましたが、どうか本事件の対処については変えないでほしいと思います。