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アステロイド・シティのrollinのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.2
パステロイド・シティ


前作『フレンチ・ディスパッチ』の無量空処のような情報量の反動からか、今作はウェス・アンダーソン作品としては比較的ゆったりとしたテンポでチルい仕上がり。

アステロイド・シティのレトロで淡い、チョコミントの蜃気楼のような愛らしいビジュアルに、強靭なキャスティング。空想科学絵本のようなプロダクション。潤沢な素材をあくまで質素に、それでいて完璧なオペレーションで捉えたフレームの数々は、毎秒ごとに観客を幸せにする何かが分泌されていました。きっと。

物語の構造は三層の入れ子式🪆で、科学賞の授賞式のためにアストロイド・シティに訪れた家族のメインとなる物語と、それは役者が演じている芝居であるという第二層、さらにはブライアン・クランストンをMCに迎えその舞台の顛末をドキュメンタリー調で紹介する外郭といった具合。何となくインセプションっぽい。

何だか捻くれた構成に思えるけど、メインとなるアステロイド・シティ現地の物語以外は三幕構成を仕切る栞のような差し込まれ方で混乱することもなく、取り分け終盤の第二層における元・天才マックスa.k.a.ジェイソン・シュワルツマンとマーゴット・ロビーの逢瀬の会話シーンは、メタい構造の妙と言うか、夢と現実の境を心地良く曖昧にさせる非常にロマンチックな瞬間で、今作一番のお気に入りです。

キャスト陣に言及するとキリがないけれど、途中までビル・マーレイと錯覚してしまうくらいトム・ハンクスが良きじぃじとして仕上がってました。ウィレム・デフォーやエイドリアン・ブロディ、エドワード・ノートンといった花形をモノクロの第二層に閉じ込めてるのも意味ありげ。
スカーレット・ヨハンソンのフレームに虜囚されたスター像はまさにマリリン・モンローで、ジェイソンと正対して窓越しに会話するシーンは撮影者と被写体の関係をウェス・アンダーソンなりに皮肉ってたのかな。

近年の監督は、対象を正対で捉えながら俯瞰的な感覚を意識させるのがテーマにあるようで、今作の「目覚めたければ眠れ」という印象的なフレーズや入れ子構造も、そういった試みのひとつなのかもしれない。やっぱインセプションやな。

物語的には中心となる家族以外の引き際が結構雑だったので、何か勿体無い気がしました。なにわともあれ、唯一無二のビジュアルと世界観は必見の価値しかありまへん。
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