のほほんさん

ロスト・ボディ ~消失~ののほほんさんのネタバレレビュー・内容・結末

ロスト・ボディ ~消失~(2020年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

シッチェス映画祭ファンタスティックセレクション2021

本年の第1発目。
いきなり見応えあったなあ。


奥さんが失踪した過去があり、彼女と暮らしたパリを避けていた建築家。20年の後に再びパリに来た彼は、自らが設計した空港で足止めを食う。


その原因はとてもVIPラウンジに来れるようには見えないパンクなテセルなのだが、やたらと彼に絡む彼女の話は、次第に狂気を帯びつつも建築家の過去にリンクしていく…。


ネコのエサを食べたり人気者のクラスメイトを呪い殺したり、見かけた美しい女性をレイプしようとし、その後2年も追い求めたり、という話や、男子トイレに堂々と入り込んで用を足すテセルは不気味。

しかしそんな彼女と建築家の過去が繋がった時、全く異なる物語が始まる。


「完璧」

この言葉。
建築物は、完璧でないといけない。
それを追求する建築家もまた、その作品だけでなく全てに完璧を求めるのかもしれない。


奥さんの心が自分から離れたと感じた建築家は、彼女を殺害し建設中の空港に埋めた。彼が足止めを食らっている「彼の」空港は、奥さんの巨大なお墓なのだ。
奥さんが行こうとしていたアムステルダム生まれのテセルは、子供が欲しかった(あるいは単に夜の営みが無かった?)建築家が自らを投影した「娘」なのだ。
テセルの悲惨な家庭環境は、自分という父が不在であればその環境は悲惨であろうという彼の妄想だ。


己の犯行を知った建築家は、テセルに自身を殺させようとする。奥さんと同様に、セメントに埋められるのだ。
しかしその今際の際で、奥さんとの甘い生活を思い出した建築家。彼は反撃し、テセルをセメントに埋めて殺す。
席に戻ると、テセルとの格闘で手や額に負った傷が消えていく。そして彼は不敵な笑みを浮かべる。


自分が完璧であるには、奥さんから愛されていなければならなかった。
奥さんの心が離れる=自分が完璧でなくなることは、彼を奥さん殺害に至らしめた。
そしてその不完全さの産物である「娘」テセルを殺すのは、その自分の不完全さを殺すということだ。


劇中で何度も繰り返されたサン=テグジュペリの言葉。
「完璧とは、何も足すことがなくなったことではなく、何も削ることが出来ないときだ」。


不完全な自身を葬りさり、彼は完璧になった。
身勝手極まりない、胸糞悪いラスト。


彼が設計した空港の模型に、血がついていたり人形が動いていたりする小道具の妙。
基本的に2人しかいない空間で、その2人の関係性が話の中で変わっていく妙。


洗練されたデザインの空港が舞台で全体的に静かなトーン。
派手さはないが見応えのある作品だった。


ドミニク・ピノンがお元気そうで何より