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ある男のKHのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.2
2024年の年間ノルマ70本中13作品目見させて貰いました。

つい先日、同監督の『愚行録』も視聴させて頂いたばかりで、まだ削られたライフも戻ってはおりませんがすっかりと嵌ってしまっている様な状態であります。

また、内容に関しては全く知りません。
えーと、妻夫木聡やら窪田正孝やら安藤さくらやらが出演していると言うことだけは辛うじて知っております。
その他はタイトルから察する程度です。

まずはネタバレなしの率直な感想をば述べたいと思います。

『非常に良い作品でした。日本の役者の底力というか、個人的には邦画の評価はあまり高くないんですよ俺、
と言うのも昨今では漫画原作の実写化だとか、見せ過ぎな予告編やら、ラストで貴方は絶対に騙されるやら、長過ぎるサブタイトルやら、色々見る気を削いでしまう様な作品が横行している中、
今作の様な短くスパン‼︎と言い切るタイトルは自信を持ってお勧めできるが如く。

本当に面白い邦画は世界で全然通用するし、
本当に良い役者の芝居は世界で全然戦えるなぁと改めて教えてくれる作品の一つには確実になっております。
またその辺のお話は後半でするとして、やはりなんと言ってもストーリーが終始どちらへ向かうのかわからない部分や、
先の読めない展開、などなど、本当にずっと集中力が切れずに見れたと思います。

衝撃度では『愚行録』の方が若干高めではありますが、こちらもかなりお勧めできる一本なのは間違い無いです』


個人的にはあまり邦画を褒めない私ですが、やっぱり良いものは良いんですよ。そこは正直に言って、まぁ本当に見てないだけなんだとは思うんですけど、


そしてここから先はネタバレを含む感想になりますので、まだ見てない方はご注意を、


まず、僕がなんと言っても最初に衝撃を受けたのはやはり冒頭、安藤さくらが文具店で見せた涙なんですよ。
なんであんな芝居が出来るのでしょうか。
『万引き家族』も見てますが、それとはまた別のと言うか、違う種類の溜める涙。
あの辺の細かさからすぐに色々な背景を想像してしまいました。
結果的に言うと、あの涙は、自身の現在の心境というのでしょうか。

末っ子の病死にまだ心の折り合いがついておらず、それによって夫婦の中も破綻してしまい田舎に帰って来た。どれぐらい時間が経過しているかはわからないが、おそらくは父親を亡くしてまも無いことが母とお客さんとのやりとりでわかります。

また、今作の安藤さくらはそんな状況にも関わらず、なんとなく仕草の端々に隙があると言うか、まだ女を諦めてないと言うか、
普通なら新たな恋愛にはならないやろ?という心理状況にも関わらず、
窪田正孝を惹きつける部分が、見てる側からもわかると言うか、
その辺が絶妙だった様に思います。
僕の気のせいかもしれませんが、

安藤さくら好きなので、

前半の安藤さくらと、窪田正孝のやりとりは全体的に非常に見ていて気持ちの良いくらい良いストーリーだった様に感じました。

また、ラストのラストで色々と発覚してしまった弁護士の妻夫木聡もなんとも言えない細かな演技がありました。
義理の両親から投げられる悪意のない中傷と言うか、
国の制度や、在日に対する不満。それらを張り付いた様な笑顔でなんとか受け流す部分は相当見ているこっちがしんどかったと言うか、もう心がズタズタになりそうでした。

同じ様な演技で言えば、旅館の長男の方も非常に嫌な演技が上手いと言うか
なんなに心のない人間がなぜ老舗旅館を継げるのかと問いたくなるほど空気の読めない発言が多かった様に思います。
また、妻、真木よう子からも仕事を家に持ち帰った事を非難されるシーンがありますが、結果として自分は不倫をしているのを棚に上げて旦那を非難してる訳なので、

またしても僕は人間を辞めたいなと言う気持ちになります。

そこも当然の様に笑顔であしらう妻夫木聡は凄まじいです。
しかし、とても笑顔ではやり過ごせない相手
柄本明の登場ですよ。

嘘だろってくらいの在日批判というか、え?そんなに言うて大丈夫かしらとこっちが思いたくなる。昨今のクルド人問題や、日本の移民に対する一部の人の考えをもろに浴びせられた妻夫木がやっと怒りの表情を見せてくれました。また、そのシーンで面会室なのにも関わらず雨が降っている様な演出は
とても印象的で、ものすごくいやーな気持ちになりました。

そう思うと役者陣が本当に素晴らしい演技だった様に思います。ボクシングジムのでんでんも本当に最高でした。
すごく良い人の役でホッとしたのは僕だけじゃないはず、もしでんでんが窪田君に辛く当たる人間だったらもう僕は本当にもう。。
人じゃなくなっちゃいますよ。

窪田君がボクサーだったと聞いた時に、
『あぁやっぱり生い立ちがあれだと、不良みたいになっちゃって、ボクシングとか始めたんかなぁ』とか浅はかに考えていた事を恥じました。
『自分を殴るためにボクシングを始めた』
あのセリフは本当にキツかったです。

もう本当にしんどかったです。
なら俺が殴ってやると言ったでんでんに本当に救われた気がしました。
愛のある拳だった様に思います。

また、ラストのバーでのやりとりは少し考えが必要というか、
結論として妻夫木聡は別人になってしまったのか?いや、ただ偶然出会ったバーのお客相手に別人を演じてみただけなのか?

冒頭で映る不気味な絵画とラストで妻夫木聡が重なるのがなんとも意味深というか、
絶対に綺麗には終わらないと言うか、

冒頭と同じなので円環構造にはなっているんですが、何が起ころうとも何も変わらないと言われている様に思いました。

どんなに名前や見た目を変えても、

人間性までは変えられないと言うか、

どんなに笑顔で取り繕っても、見透かされてるぞと言われてしまってる様に感じるラストでした。

本当に本当に素晴らしい映画でした。

今回はこの辺にします。
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