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ある男のmaのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
3.9
再婚して子どもたちとともに穏やかな暮らしを送っていた里枝は、ある日夫の大祐を仕事中の事故で喪ってしまう。疎遠だったという大祐の実兄が里枝のもとを訪ねてくるが、仏壇の遺影を見た彼は、至極真面目に繰り返し言う。「これ、大祐じゃないです」


この作品の面白いところは、突然悲しみと混乱の渦に巻き込まれた里枝でも、「谷口大祐」から「X」となった男でもなく、この真相を追うべく里枝から相談を受けた弁護士の城戸が主人公であるということ。

自らもルーツにコンプレックスを抱える城戸が、苦しみ生きて死んだ「X」に自分を重ねて葛藤する姿。悪意無き偏見を作り笑いでやり過ごすときの翳りが印象的だった。

そして幸せそうな笑顔から一転、ぶわっと闇に侵食されていくような窪田正孝の演技。凄みがあったし、胸が締め付けられる。

何が人をその人たらしめるのか。人種や肩書き、名前、ありとあらゆるラベルを剥がしきったあと、そこに残るものは何なのだろう。
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