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ブラッド・ブラザーズ マルコムXとモハメド・アリのblacknessfallのレビュー・感想・評価

4.2
関心のある人にはマルコムXとモハメッド・アリが信仰(ネーション・オブ・イスラム)とポリシー(反黒人差別)から篤い友情を結び数年後に袂を分かったのは有名な話。でも、何故二人が決裂したのか?マルコムX暗殺後、アリがマルコムにどんな思いを抱いてたかは意外と知られていないと思う。そこに焦点を絞った資料価値の高いドキュメンタリー。

ハーレムのチンピラだったマルコムは服役中にネーション・オブ・イスラムのイスラム教を独自解釈した反差別主義に共鳴しネーション・オブ・イスラムに入信、その鋭い舌鋒と確信を突く言葉、教祖イライジャ・ムハマンド以上のカリスマ性と白人社会に対する強硬な姿勢で教団の顔的存在になっていた。そして当時、新進気鋭のボクサーとして世間の注目集めていたアリと出会う。マルコムに感銘を受け彼を師と仰ぐようになったアリもネーション・オブ・イスラムに入信、今まで以上に世間の注目集める。

同じ理想に燃えた二人は積極的に白人社会の欺瞞を告発、黒人の権利の回復、そして白人からの分離主義を唱える。
そんな感じでビッグネームがタッグ組んだ波及効果は絶大でネーション・オブ・イスラムも信者を増やしていく。
しかし、マルコムはネーション・オブ・イスラムの偏った教義、分離主義に限界を感じ、教団の教義と自身の主張の解離から教祖イライジャと軋轢が生まれ、教団を離脱する。

これを機にアリとマルコムの関係にもすきま風が、マルコムは現実離れした分離主義から現実で政治的なアプローチを模索していて、かつて迎合主義と罵ったキング牧師とも会談してる。これはキリスト教は黒人を支配するための宗教だと定義するネーション・オブ・イスラムに対する反逆行為で許されることではない。さらにマルコムは教祖イライジャに愛人が数人いて隠し子までいることを暴露する。
要するにマルコムはネーション・オブ・イスラムを思想的にも倫理的にも信じられなくなってしまったんだよね。

それに対してアリはネーション・オブ・イスラムと教祖イライジャに心酔していた。なので、師を批判し教団を離脱したマルコムに激怒して「師を批判するなんて有り得ない」とマルコムを糾弾し教団離脱後もアリと交流望むマルコムと絶縁する。

この辺のことはマルコムXの自伝とかにも詳しく書かれてるから知てっるんだけど、改めて見てもつらい。二人とも尊敬してるし大好きだから、もう少し何とかならなかったかと思う。昔はマルコムの言ってることがよく分かるからアリがバカに見えたけど、この当時アリはまだ若者と言っていい年齢だし何かに心酔して、それを否定する相手が受け入れらなくなるのも今はよく分かる。思い返せば自分にも似たようなことはあった。今考えればそこまで相手を否定することはないのにと思えることで人を遮断してしまった。見てる景色のちょっとした違いが許せない。

話はマルコムX暗殺後に入る。ここでマルコムの死についてメディアからコメントを求められたアリは「師に逆らった者がひどい死に方をするのは当然」「ネーション・オブ・イスラムは絶対正義だ」的なことを言う。このシークエンスは初めて見たからかなりショックだった。いくらなんでも言い過ぎだろ!と。後の話になるけどボブ・デュランに「最も強く優しい男」と称えられた人間の言うことかよ!と。

もともとマルコムXの方が好きなもんで、この時点でアリのこと嫌いになりそうだったよ。「ベトナム戦争徴兵拒否は超かっこいいけど、アリの野郎許せねえ💢」みたいなテンションに。

で、興味はアリは終生マルコムに対してこう思っていたのか?になる。
終盤、マルコムXの娘の語る。イライジャ・ムハマンドが逝去後、ネーション・オブ・イスラムを脱会したアリからマルコムの未亡人に電話があり、それは自分達のことを気遣う内容だったと。
アリの娘もはっきり言わないがアリがマルコムにしたことを後悔してるような気配を感じていたと話す。
2003年、マルコムXの評伝を書くためにマルコムの娘がアリを訪ね、マルコム対する思いを聞くとアリは「深く後悔している」「大体の事でマルコムが正しかった」と語った。

これが聞けてよかったけど、何とも切ない気持ちになったな。おれから見るとマルコムもアリも"黒人が卑屈になることはない、自分達は怒るべき酷い状況に置かれてる"ということを毅然とアピールした偉人でありヒーローだと思っているので。あの時、二人が決別しなければ歴史を変えるようなポジティブなムーブメントが生まれていたように思えてならない。

あと、マルコムXと言うと暴力闘争を唱えた過激派、アジテーターというイメージを持たれがちで、それは嘘ではないんだけど、後に、黒人差別を国際問題と定義して国連や世界各国に訴える活動した優れた活動家だったことはあまり知られてないのが残念なんだけど、このドキュメンタリーにはその辺のことにも時間を割いてくれてるので、マルコムXのことを有りがちなイメージでしか見てない人に多く観てほしいと思った。
でも、現時点のレビュー数見るとそんなことにはならなそうだな、、😞

これはNetflixJAPANがちゃんと宣伝しねえからなんだよ。おれのような興味関心ありありの人間でさえ、このドキュメンタリーがあるって知らなかったからな。
NetflixJAPANが全然宣伝する気のない良作を熱心に丁寧に紹介してくれている某SNSで"非公式Netflixアンバサダー"を名のる方が紹介してくれなかったら見逃してたぞ💢『全裸監督』みたいな女性搾取成金を美化したような時代錯誤な作品作ったり推しまくってんじゃねーぞ😠埋もれそうな良作を紹介しまくれや❗️
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