takanoひねもすのたり

恋い焦れ歌えのtakanoひねもすのたりのネタバレレビュー・内容・結末

恋い焦れ歌え(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

「先生はゲイじゃないだろ」
「……ゲイではないな」
「だったら止めとけ、今ならまだ引き返せる」
この優しいひとときを想い抱えて生きてゆくんだろうかカイは。

小学校臨時教員の桐谷仁(稲葉友)は帰宅途中の公園でマスクをした暴漢に襲われレイプされる。
妻には打ち明けられないまま激しいトラウマを抱えつつカウンセリングに通い何とか日常生活を送っていたある日、カイ(遠藤健慎)という青年が現れ、桐谷のトラウマを抉るような言動を繰り返し脅迫する。
そして執拗に「犯された経験をラップにしてみろよ」と煽るのだが。

前半がとにかく辛い展開の連続。
カイの真意がミスリードされているため、ただひたすら桐谷を追い詰めている様が、そして苦しそうな桐谷の姿が本当に辛い。
警察に被害届を提出した桐谷本人を交えて現場検証を行う場面が、そこまで本人が再現しなくちゃいけないの……?という屈辱的な描写だったので心中すら沈黙する。

後半は徐々にカイのこれまでの行動に意味があり、全ては桐谷のためだったという真意が明かされるので、張り詰めた気持ちの逃げ所が出来て息がつける……ものの、後半は後半で子供が殺害されてしまうエピソードが入るため再び暗鬱な気分に落とされた。

子供の頃から性的虐待を受けていたカイが「でも代議士先生(幼い頃からカイを虐待していた相手)はここを守ってくれる」と呼び出され関係を続けるのは、それグルーミングされてるんじゃないか……と思い、平気な顔で何でもないことのようにしているけれど子供の頃のカイに深い傷をつけたのは間違いなく。
彼だけが人身御供にならなくても……周りもそれ知っていても保身があり救うことは難しい。八方塞がりな中、終盤で桐谷が彼を救う行動を取ってくれて良かった……。
いきなり火炎瓶という過激に飛ぶとは思わなかったけれど。びっくりした。

後半カイの仲間の翔太の口から「先生の家庭を壊す気は無かった、カイも後悔していた」と明かすけれど、前半の桐谷の自宅にビラを貼る行為はやり過ぎだと思う……カイにとっては極端な行動を取るしか無かったんだろうけれど。
トラウマ克服の段階を踏ませる→自分と同じ場所まで堕ちて克服しろ、という。

自分を憎め、怒れ、という捨て身のカイが辛い。まるで抜身のナイフで互いを傷つけ合い、殴り合い、優しさの欠片もなく、ただ暴力が介在していたふたりが血を流しあった後に、真実を知り、桐谷の中に湧き上がったのは情なのか、それともそれを愛と呼ぶのかは分からない。
(カイは10年前から桐谷を知っており思慕していた)

しかし幸福な時間は一瞬しか訪れないラストに、あの場面で心中で(ぇえええええええ😱)って悲鳴が。

この作品、様々な社会問題も含めて描いていることもあり、単純にBLと括るには抵抗がある。
またBL+HIPHOPという組み合わせがジャンル内の層が厚いところではないのが難しい。
(某ヒプノシスマ〇〇界隈とは根本から違うし……)
そのため観る人を選ぶだろうなということは明らかなんですが、これ、桐谷とカイというふたりが同性だからこそ成立している物語だと思う……。
感想難しい。

難点はカメラがめちゃめちゃ揺れるので酔いました……💧