耶馬英彦

コンペティションの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

コンペティション(2021年製作の映画)
3.5
 上映中の映画「シン・仮面ライダー」に主演している池松壮亮が、2003年に12歳で映画「ラスト・サムライ」に出たとき、トム・クルーズからペネロペ・クルスを紹介してもらったエピソードを披露している。抱きしめられると、それまで嗅いだことのない香りがしたそうだ。20年前の話である。
 1974年生まれのペネロペ・クルスは、48歳のいまも美しいが、20年前の28歳くらいのころは、この世のものと思えないほどの美しさだったに違いない。トルストイやドストエフスキーやゲーテや夏目漱石など、歴史的な文豪に彼女を会わせたら、どんな文章で表現するのか考えると、言葉が無限に広がる気がする。
 その後、単なる美人女優から脱却したようで、2021年の映画「パラレル・マザーズ」では、娘を取り違えられ、実の娘を亡くし、間違った娘を本来の母親に返すことで、一度に2人の子供を失った母親の喪失感を繊細に演じきっている。見事な演技だった。

 本作品では才能ありげな映画監督ローラを演じていて、話がとても上手い。曲者の中年男2人の俳優を相手に奮闘するのだが、ひとりは観客を見下している芸術至上主義者イバンで、もうひとりは俗物根性丸出しの拝金主義者フェリックスだ。必然的に2人の俳優は互いにマウントの取り合いをする。しかしローラも負けていない。自分の才能に絶大な自信を持っている。2人の俳優の自信の象徴のようなものをぶっ壊すことで、俗物的な精神の殻を破って、虚心坦懐な演技をさせようとする。その思惑は上手くいくのか。2人の俳優のマウント合戦はどんな結末を迎えるのか。

 設定がアンバランスだから位置エネルギーが自動的に物語を進めていく。そういう仕掛けの作品だ。3人の力関係が微妙に変化していく様が面白いのだが、オーナーも含めれば、映画界の力関係そのものでもある。ローラの自宅のシーンでペネロペ・クルスが脇毛を披露したのも、ひとつの象徴だろう。その意味を考えれば、とても興味深いものがある。
耶馬英彦

耶馬英彦