こなつ

土を喰らう十二ヵ月のこなつのレビュー・感想・評価

土を喰らう十二ヵ月(2022年製作の映画)
4.0
作家水上勉のエッセイ「土を喰う日々ーわが精進十二ヶ月ー」を中江裕司監督が脚本化。沢田研二待望の主演作

料理研究家の土井善晴が映画に初挑戦して、四季折々の食でつづる人生ドラマ。

畑で育てた野菜、山でとった実やきのこ、それらを自ら料理して食べる。季節の移ろいを感じながらの菜食を中心とした食生活は、一見質素だが、自然の恵みに溢れたとても豊かなものであることを感じさせてくれた作品。

作家のツトム(沢田研二)は、犬のサンショウと人里離れた長野の山荘で暮らしながら執筆する悠々自適な日々を送っている。時折訪ねてくる編集者で恋人の真知子(松たか子)に、山の自然を味わえる旬の食材を使った料理を振る舞い、一緒に食べることを楽しみにしている。

そんなツトムは、13年前に他界した妻の八重子の遺骨をまだ墓に納められずにいた。

ツトムには、昔、口減らしのために禅寺に奉公に出され、脱走したという過去があった。その禅寺で住職から教わった精進料理を思い出しながら、自然の匂いのする極上の料理を次々に作っていく。

気候変動で変わりつつある世界だが、まだ日本には世界に誇る移りゆく四季折々の美しさが残っていると、スクリーンを通して何とも言えぬ幸福感に包まれた。

犬のサンショウの名前は、山椒好きの妻が命名したもの。その犬の演技?があまりも自然体で愛らしかった。撮影現場の白馬村の近隣のお宅の飼い犬で、たまたま見つけたというのには驚く。顔の表情、佇まい、名演技だった。

主題歌の「いつか君は」は、沢田研二の歌声が聴きたいとプロデューサー陣が思っていたところ、沢田研二本人が提案した楽曲とのこと。26年前に発表されたアルバムの中の1曲で、今回音源がリマスターされ、CDとして発売されている。

エンドロールで流れる沢田研二の甘い歌声は、沢田研二ファンにとってはたまらないものだと思うとともに、作品の世界観を紡ぎ出す優しい旋律が心に残った。

忙しない日々の中、愛する人と美味しいものを食べるというそんなシンプルなことが、人生を、心をこんなに豊かにしてくれるのだと感じさせてくれた良い作品だった。
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