滝井椎野

ベルファストの滝井椎野のネタバレレビュー・内容・結末

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

暖かな視線に見守られながら成長していくバディ少年の姿が微笑ましい。背景は悲惨ながら、温かな気持ちで最後まで観ることができた。

時勢的に、宗教間で対立する町の人々の姿をより身近に感じてしまい、そんな中でのバディ達家族の良心、それでも故郷を離れるという選択しかできない現実が胸に刺さった。
それらがバディの目や行動を通して描かれているからこそ、お爺ちゃんの茶目っ気たっぷりのアドバイスや、お父さんとのやり取り、お母さんの説教等が変に説教臭くならずに純粋にこちらへの心へと訴えかけてくる物語になっている。激怒したお母さんに追い掛けられるバディは何となくサザエさん味を感じて面白かった。どこの国でも子供の叱られる風景は変わらないのだろうなと思うと、可笑しかった。

個人的に、本作一番の見所は得も言われぬノスタルジー。町の人々はフレッド・アステアのステップを踏み、画面の向こうではジョン・ウェインやエンタープライズ号が活躍する。チキ・チキ・バン・バンで劇場が賑わう場面なんかは観ているこちらも心が浮き立つようだった。
なんでも、ケネス・ブラナー監督の半自伝的な作品とのことで、要所要所に自分の好きなものや思い出等が溢れているのが非情に好ましい。
教会での説教のくだりも、子供の頃はああいうのが何なく怖かったりするのだよな……等と自身の思い出と比べたりして、こちらも過去の自分に思いを馳せることができた。

本作を観ていると、『ニュー・シネマ・パラダイス』との類似点を所々に感じた。あれもノスタルジーと成長、故郷を後に先へと進みはじめるまでをテーマにした作品だったからだろうか。特に最後、お婆ちゃんがバディ達家族を見送るシーンはアルフレードと重なるところがあり、涙腺が緩んでしまった。

今だからこそ、色んな人に観てもらいたい作品だった。
滝井椎野

滝井椎野