しの

ベルファストのしののレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
3.8
『ROMA/ローマ』×『ジョジョ・ラビット』の趣きだが、監督の実体験が反映されているからか作為的な「子供目線」のいやらしさがなく、あくまでユーモア溢れる日常の背景として紛争描写が存在する。一番の山場もどこか西部劇的で、主人公のフィルターがかかっているのが面白い。

なんだか街が全体的にセットっぽく、西部劇の舞台のようだなと思っていたら、主人公がまさに西部劇や舞台などのコンテンツを鑑賞するシーンが多数あり、そしてあのクライマックス……これは完全に意図的な作りなのだなと納得した。つまり、映画全体が主人公目線で美化されており、脚色も加わっている。

そう考えると、明らかに命の危険と隣り合わせなのに全体的に危機感がなく、シリアスになり切らないのも理解できる。両親が流石に格好よすぎだろうというのも、同じく憧憬と美化のフィルターが反映されているのだろう。しかしだからこそ、あの頃確かに存在した街の生命力に等身大の真実味が宿るのだ。

一番感動したのは“Everlasting Love”が流れるあのシーン。もはや憧憬と美化のフィルターが行くところまで行ってしまっているのだが、だからこそ市井の人々のとんでもない力強さを実感し、やられてしまうのだ。実際はここまで「劇的」じゃなかったかもしれないが、彼にはそう見えたのだと。

このように、本作は回想映画として必然的に作り手の憧憬や美化が反映されてしまうことに自覚的な作りで、それが効果的な面は多々あるのだが、とはいえ流石にベルファストの街が書き割り的でロケーションの魅力にも乏しいのは気になる。もう少しラストに世界が開ける瞬間があってほしい。

これを観たら、確かに外野が安易に「そんな街さっさと出ていけばいいのに」と言うのは見当違いだなとは思うのだが、しかしその納得感が例えば『ROMA/ローマ』のような圧倒的な没入感による映画的体感として抱けるかというと難しいものがあり、人間賛歌の話に閉じてしまった印象。ただ、力強くはあった。
しの

しの