jonajona

ベルファストのjonajonaのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
5.0
ゴミ箱の蓋を盾に見立てて、アルミと段ボールで作った銀の剣を手にして女の子とチャンバラごっこ。勝ったと見なしてYES!と笑いジャンプする少年の無邪気さに3秒で心を掴まれる。

思い出の美しさ(フィクション)で辛く厳しい時代だった現実の過去(ノンフィクション)を彩る、そういう監督の視点を味わえる。
TENETのあの妄執に囚われた恐るべき愚男を演じたケネスブラナーがかつての故郷ベルファストでの自身の幼少期を描く。
『古きよき世界』たる故郷への憧憬と、そこに生きた父と母、祖父母への愛情とユーモアがたっぷりに溢れてくる。しかし同時に時代や大人の事情に常に振り回される恐怖やもどかしさがまざまざと描かれてる。こんな正と負の描写を両立させれてるのがすごいなと思った。

本作は特に、母親(演じる女優さんの美しさも相まって)への愛情ある眼差しが魅力的だった。自伝という事を意識せずともここまで安心して見れるこどもが主役の映画というのは今時もはや珍しいような気もする。

白黒の世界の中の色彩表現は、テレビや舞台など少年にとっては物語だけが色彩の中にあるという子供目線の世界への焦点の当て方の演出でもあるし、同時に彼らベルファストの町に生きる人々が今の我々の視点から見ると取り残されたモノクロームの存在だという儚さも示している。

従姉妹に唆され暴徒に訳もわからず参加し、主人公の少年が洗剤を盗んできた時のセリフが最高。『環境にいいから…』というあの状況下で最大限の配慮…笑
その後のお母さんが自分の身の危険なども顧みず腕を引っ張って暴徒溢れる店に自分で返却させにいく強行に出るシーンが最高だった。暴徒の中で正しいことを怒り狂いながら説く母の姿がよりいい。母強し。

お父さんがパブみたいな所で奥さんに向けて歌う挿入歌が超絶格好良かった。
(CMにも流れてるやつ。ラブアフェアの『ever lasting love』という曲)

繰り返しTVで流れていた西部劇のように小悪党をはねっ返す母と父の連携プレイに、実際のこんな事があったのかなどは関係なく(むしろ無かったのだろうと分かった上でさらに)心が震えるものがある。記憶の中の少年期であるという事がラストのこのフィクション性を強くエモーショナルなものにしてる。僕らが見てるのは彼自身が信じたい当時の世界であり、さらにはこうあるべき世界の愛なのだと。

テレビや演劇などエンターテイメントに心惹かれる少年の姿に、否応なく自分を重ねる。我が家はここまで理想的な美しい家族ではなかったが、家の中でテレビを観てる最中に母親と父親の口論が聞こえて来るこの居心地の悪い時間には誰しも身に覚えがあるのでないかと思う。僕はその当時の自分の心情も思い出してしまいぐっと惹きつけられた。そう。なぜかああいう時は集中なんか出来ないのにテレビから目が離せない。そうなのだ。


心に染み入る言葉が沢山あったはずだけど、うろ覚えなのでまたDVD買ったら追記しよっと。
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