ハル

ちょっと思い出しただけのハルのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.9
懐かしいようであり新しいスタイルの恋愛映画に感じた。

キーポイントを照生(池松壮亮)の誕生日に設定して、そこから遡っていく手法が斬新。
監督曰くコロナ禍の最中で現実的に可能な方法を考えた末、この方法に辿り着いたそうだが、理に適っていて純粋に凄く説得力がある演出だなと。

照生と葉(伊藤沙莉)の距離感がなぜ離れていき、また作られてきたのかもよく沁み込む。

作品の根幹である池松壮亮と伊藤沙莉のコンビ、これが実に良い。
鑑賞前、池松壮亮はともかく、伊藤沙莉のヒロイン像はいまいち想像できなかったのだが、杞憂に終わる。
タクシーの運転手という仕事や本音を中々言えないタイプの女性役が妙に似合っていた。
キャスティングも狙ってこの二人を決められたようなので、監督の思い描いた形なのだろう。
こういう作品はメインの二人が直感でマッチしないと入り込めない為、スッと劇に入り込めて一安心。

そして、どうしても触れておきたいのが國村隼。
バイプレーヤーとしてあらゆる作品で貫禄を示し続けている彼だが、本作ではまたしてもやってくれている。
ちなみに出番はそこまで多くない。
それでも十分過ぎるほどの存在感を醸し出し、憎いくらいに「場」と馴染んでいた。

どのような役をやらしても本当に素晴らしい芝居を見せてくれ、映画界に無くてはならない役者さんである事をまたもや再認識させられた。
今作の同性愛者のマスター?ママ?も不思議と違和感なく、パンチがきいている。

「ちょっと思い出しただけ」は切なくもノスタルジックな空気が漂う新しいタイプの恋愛映画。
「花束みたいな恋をした」や「僕達はみんな大人になれなかった」とも一味違うテイスト。
普遍的な懐かしさに浸れる作品となっていた。
エンディング、照生と葉が違う場所から同じ空を見つめ、まさにタイトル通りの余韻を残すところは最高の一言。
あの絶妙な夕暮れの色合いがそれを極限まで繊細に投影してくれていたイメージ。
あれこそ、至高のくれなずめ。

松居監督、誕生日にワールドプレミアということで本当におめでとうございます👏
ハル

ハル