chunkymonkey

モンタナ・ストーリーのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

モンタナ・ストーリー(2021年製作の映画)
4.5
「メイジーの瞳」以来のスコット・マクギー、デヴィット・シーゲル最新作。ネオ西部心理劇(?)というジャンルらしい超地味映画なのですが、主演のお二人の名演により秀逸な作品に仕上がっています。これはよかった!

脳卒中後に昏睡状態となり自宅で看護を受ける父に一度会っておこうと実家を訪れた異母姉弟。7年間会っていないどころか互いの居場所さえも知らない二人が久々に再会します。住み込みの看護師エースがそれぞれを意識のない父に対面させようとしますが何やら様子がおかしい。この家族の過去に一体何があったのか、なぜ姉弟は生き別れたのか?

25歳の姉エリンを演じるヘイリー・ルー・リチャードソン、22歳の弟カルを演じるオーウェン・ティーグの名演が凄まじいです。セリフが非常に少ないけれど、一瞬一瞬の表情が心情を観客に突きさすように訴え、何気ない所作がつくる互いの距離感も絶妙です。作品が地味なので受賞は難しいと思いますが、演技力だけでいえば完全にオスカー級。特にオーウェン・ティーグは外見も華があり今後の活躍が期待されます。

単なる一地域一家族の事情と言えばそれまでなのですが、モンタナ州の雄大な自然を背景に描かれるトラウマ、裏切り、赦し、そして再生の物語の美しさは特筆すべきもの。

おそらく田舎過ぎて時代がわからないのを現代だと強調するためか、やたらと送金アプリのVenmoを連呼していて、もはやCM状態(笑)。そういえばうちの近所で子供がレモネードスタンド作って売るのに女の子が「Venmoでも払えるよ」と呼び掛けてて、現代やなぁと思った。確かに現金持ち歩かない人多いもんね。話を映画に戻して、何気なく登場するレクサスもこのド田舎では欠片も高級感を放つことなくちょっとシュール。

弟カルと看護師エースの意味深な人物設定が放置されているという批評を読んだのですが、これでハッとさせられました。カルは現在ワイオミング州に暮らすゲイのブロンド青年であり、これはもちろん誰もがマシュー・シェパードを連想する設定です。エースは単なる黒人の男性看護師ではなく、家族をおいて単身でナイロビからなぜか同郷の人など誰もいないだろう人里離れたモンタナ州の田舎家で住み込み。加えて孤独な老馬Mr.Tに姉が屠殺する鳥。これでこの映画ももう一つの側面が見えてくる。あ、これって単にトラウマと向き合い乗り越えようとする家族物語ではなく、暴力と孤独からの解放を描いたヒーロー映画でもあったんだと。そういう目線でそれぞれのキャラクターの行く末追うとめちゃくちゃ沁みます。

ストーリーに納得いかない方もいるかもしれませんが、銃でドンパチという手段を使わないだけであくまで典型的な「西部劇」であることに留意しましょう。

荒涼としながらも美しい風景に二人の名演。地味だけど心の揺さぶりは迫力満点でした。

予告編:https://youtu.be/gli0Ns4i1PM
chunkymonkey

chunkymonkey