おなべ

キリング・オブ・ケネス・チェンバレンのおなべのレビュー・感想・評価

3.8
◉ 『フルートベール駅で』『デトロイト』『隔たる世界の2人』を彷彿とさせる、90分間の壮絶な事件を描いた衝撃の実話。

◉2011年、ニューヨーク州のホワイトプレインズ。躁うつ病を患う元海兵隊員のケネス・チェンバリンは誤って医療警報装置を作動させてしまい、異常がないか警察官が確認に訪問。誤作動のため異常は無いと主張するケネスに対し、一目部屋を見ないと帰らないと言う警察官。互いの意見が食い違い、小さな口論はとある凄惨な事件へと発展する。

◉Filmarksオンライン試写にて鑑賞。本作の企画に関心を持った《モーガン・フリーマン》が制作総指揮を務める。(実の孫娘が恋人に殺害された過去を持つ事が関係しているのか…)

◉緊張感を煽る演出が印象的。FIXではなく手動で撮ったカメラワークで、その場のライブ感やリアリティを演出。また、何かが起こる事を予感させるBGMが緊張感・緊迫感を高めており、総じて終始目を離せないくらい引き込まれた。













【以下ネタバレ含む】













◉今回の事件は警察官の過度な暴力が1番の〈要因〉であるのは間違いないし、本作の出来事も、《ジョージ・フロイド》さんの事件も数ある理不尽極まりない不当な事件の一端に過ぎず、これまでに何人もの黒人が警察官の過度な暴力で命を落としている。ただ、この事件が起きてしまった〈原因〉は、過度な暴力や暴言を吐く警察官でも、警察を信じられなかったケネス本人でもなく、アメリカの根底に横たわる負の歴史そのもの。

◉時折、「ニガー」と差別用語を放ち黒人を揶揄する白人のレイシスト警察官。ここらは“犯罪の温床”と言い張り強行手段を厭わない警部補。耳を貸さない地元警察官に不信感を抱く住人たち。そして、警察官が自分を蔑み痛めつけると信じて疑わなかったケネス。ここにあるのは、過去の事件や人種差別の歴史から生まれた偏見という名の正義。そもそも奴隷制度が生んだ憎しみと軋轢は今もなお脈々と受け継がれ、ヘイトは消える事なく現代を漂っている。

・警察はこうであるに違いない、
・黒人はこうであるに違いない、
・白人はこうであるに違いない、
・だから信じられない。

◉お互いに疑惑と偏見を抱き、トラウマや憎しみが先行してしまった結果、本作のような悲惨な事件に発展してしまった。ただ、やっぱり…。

◉新米警察官のロッシは、身体の悪い高齢者にテーザー銃は撃ってはいけないと警部補に注意するも、ルールを無視してお構いなしに撃っていた。そもそも、「別の誰かと話している」「監禁されているかも」と言っていたが、医療センターや電話で誰かと話していると結びつけられなかったものか。アメリカの負の歴史がこの事件を起こしたと言ったものの、警察官の理不尽で不当な暴力は本当に許せない。死人が出たのに、1人も有罪にならなかったのも納得がいかない。

◉最後に流れた電話のやりとりや記録映像を観ると、大枠は実話に基づいている事が分かる。
本作は国家権力である警察官に問いかける。
警察官なら何をしても許されるのか…。
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