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あなたの顔の前にのらのレビュー・感想・評価

あなたの顔の前に(2020年製作の映画)
3.7
ホン・サンスの映画はまだまだ未見がたくさんあるけれど、これは新境地なのではないかと思った。ロメールのような一見何でもない会話劇で緩やかに人とその関係性の機微を浮かび上がらせてゆくものかと思いきや、「主人公のサンオクがなぜ自分の過去を辿っているのか」という謎が明らかになると同時に、映画全体は重みを帯びる。割と真正面から人生哲学について語る映画でもあるのだ。それでいて、あくまでホン・サンスの飄々としたタッチは失わない。サンオクのあの笑いは、複雑だけどどこか軽やかで、悲しんでいるようにも喜んでいるようにも聞こえ、そして皮肉めいているようにも聞こえるが、同時に心の底から可笑しいと思っているようにも聞こえる。

『イントロダクション』と違い、こちらはたった一日の話。その中で、サンオクのこれまでの人生と心の内奥を観客に強烈に想像せてしまう。イントロダクション』と共鳴しているところも全然違うところもあるので同時に観るとより楽しめる。
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