ひでG

オッペンハイマーのひでGのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.3
レビューの語彙がまだまだ足りない僕、
凄い!好き!良い!みたいな単純なワードを使い回してしまうのですが、、
これは、凄いよ!凄い映画体験だった!
凄い!の意味合いもひとつじゃないんだ。何層にわたって凄い!

この映画の凄さを文章化するのは、かなり難しい作業だけれど、なるべく頑張ってみる!(チャプター方式でやってみよう!)

1.、時間も場所も自由自在
構成が凄く複雑、いや、一度ではとても理解するのは難しい。過去がモノクロで、今がカラーなんて単純じゃない。

オッペンハイマーが原爆を作るまでのお話は、オッペンハイマーの主観で進んでいるんだろうか、カラーで展開される。彼が直接見たものだけが映っている。

それと同時に裁判(「これは裁判ではない」というセリフが何度も出てきますが)公聴会のシーンが白黒で並行して描かれていきます。
あっ、ロバート・ダウニー・Jr.だ!ストローズという人物。んん、どんな人?
手探りの中、登場人物を懸命に覚えようとしている、人が多過ぎる💦
あれっ、カラーで公聴会?時制は戦後か、、

混乱はするけれど、それは苦痛な時間ではない。常に感性と記憶(だいぶ錆びているけど)をフル回転してノーランと格闘している。
最初は、ストローズが何を目指して、オッペンハイマーとどういう関係なのかが掴めなかった。
しかし、その蜘蛛の巣のような時制と場のクロスゲームがクライマックスにどんどん溶けて(解けて)いく。最後に残しておいたあの人物とのあの場面には久しぶりに映画館で鳥肌が立ちました!

2.原爆
 原爆開発が加速していく時、まだ、実感できませんでした。それは、オッペンハイマーたちは、「原爆をナチスの手に渡さない。」という大義名分があったから。
でも、ドイツが降伏し、それじゃって日本の名前が出る。(あまりにも安易💢)
ナチスに渡さないという大前提がなくなったけど、オッペンハイマーを先頭にしたチームは地獄の武器開発を止めることができなかった。
あんなかたちで、広島が候補に入り、そして長崎も、、あんな安易な決定で私たちの祖国は汚され、多くの人々の命を奪っていったとは。(関係者場ナガサキの地名もうる覚えだった!💢)
ギリギリのタイミングだった原爆投下の直前リハーサル。あのまま豪雨が止まないで欲しい、と分かっていでも祈ってしまう。
あれだけずっと劇中で鳴っていた音楽が一瞬消えた。
そして、次の瞬間、地獄からの轟音が私たちに襲いかかって、呑み込んでいくのです。

3.作ってからの苦悩
そのリハーサルの成功から事態は一変します。この悪魔の兵器を使用に関して、意見を挟もうとするオッペンハイマーに対して、軍は「君たちは作るだけ。後は俺たちに任せろ。」と蚊帳の外に締め出します。
オッペンハイマーの訪問に対してトルーマンの冷たい態度。
彼は徐々にアメリカから煙たがれ、やがては疑惑の眼を向けられます。
戦争の最終局面でアメリカの敵は、ナチスでも日本からはっきりと共産主義へと代わっていきます。
原爆完成は、映画のゴールでなく折り返し地点だったのです。ここからは長く、辛く、苦しい場面が続きます。
オッペンハイマーは、外からも自身の内面(罪悪感)からも責められていきます。痩せて正気の抜けた感じをキリアン・マーフィが見事に表現しています。
二つの裁きの場が同時に進行していき、観客もオッペンハイマー同様に追い込まれていくようです。

4日本人として
今までにも原爆に関する作品や映像はたくさん観てきました。本作について、落とされた側の描写がないことに不満の声も聞きましたが、本作は映画では映らない惨状をオッペンハイマーの頭脳を通して観客は想像します。
本作のその部分を誰よりも鮮明に思い浮かべられるのは悲しいかな私たち日本人なのです。
作った側の物語に接することにより、被害者なのにそれを風化してしまう私たちは、これを観て、それぞれが想い、語り合うべきだと考えました。

5.最高の題材を最高のキャストで
オスカーを手にしたキリアン・マーフィとロバート・ダウニー・Jrの他に僕はエミリー・ブラントのあの表情、特にいつも不満と不安を抱えているあの瞳。いつも優しく強い女性を演じることが多かった彼女だが、壊れる寸前の奥さん役も見事でした。


もう一度観るのは、時間的も心身的にもキツいけど、また観れたら、また新しい気付きがあるかもしれないね。
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