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オッペンハイマーのJPのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.4
▼加速度的に速くなる、恐ろしい足踏み

爆発音と爆風が、何秒も遅れて訪れる衝撃。映画史に残る爆音ジャンプスケアは、トリニティ実験の場面だけでなく、その後の拍手喝采の最中に幻影を見る場面でも訪れる。聴衆(マンハッタン計画に参加していた人々?)は足を踏み鳴らし、加速度的にテンポが速くなっていく。(これは映画のオープニングなど、緊張感が高まる場面ですでに何度も使われていて、この拍手喝采の場面でようやく、この足踏みの音の正体が明らかになる。)
連鎖的にエネルギー総量が大きくなっていく原子爆弾の爆発を象徴するような音だ。


▼暴力的な、爆音ジャンプスケア

初めは複雑な面持ちで壇上に上がるが、アメリカ国旗を持った聴衆の笑顔と歓声に次第に高揚する。何か言うたびに立ち上がり、拍手し、熱狂する人々。「本当はドイツにも落としたかった!」などと言った次の瞬間、もはや歓声は聞こえなくなり(トリニティ実験の時も爆発時は音が消え、弦楽器のキリキリとした劇伴のみになる)、オッペンハイマーの背景がゆらぎ始める。そこで真っ白な光が差し込み、その場に原爆が落とされたかのような幻影を見る。聴衆は一瞬で消え去り、皮膚がただれた女性が見え…ここでトリニティ実験の時と同じ音量の歓声が突然襲ってきて、彼は我にかえる。
彼にとって、「原爆の爆音」と「国民の歓声」はきっと同じ衝撃だったのだ。自分の想像を超え、コントロールできないものを作ってしまったという衝撃が、この爆音ジャンプスケアで表されている。

▼暴力的なタイムラグ

さらに、彼は広島に原爆が投下されたことを16時間後に知る。トリニティ実験の時はあんなに細かくカウントダウンを刻んでいたにもかかわらず、初めて人間の上に投下される時に、彼はカウントダウンさせてもらえなかった。
原爆が彼にコントロールできるものではなくなったことを明確に表すためにも、あの過度にあっさりした広島原爆投下の描写は必須だったと思う。
彼がカウントダウンできなかったということを受け、いつ原爆がどこに落とされるかわからない恐怖に彼は苛まれていく。それが、一瞬で聴衆が消え去ったり、爆音の歓声で我にかえる幻影の形で描かれているのが◎
彼が抱く恐怖は、突然差し込む閃光と爆音によりもたらされる死の恐怖だ。それは、観客が爆音ジャンプスケアに慄くことと重なる。


▼彼が作ったのは爆弾ではなく、装置
劇中、原子爆弾(=Bomb)と言われてオッペンハイマーが即座に「装置(=Gadget)」と否定する場面が印象的。
彼は爆弾が地球上の大気すべてに連鎖的に引火し、この星を焼き尽くしてしまうことを恐れていた。結果、そうはならなかったが、この映画を締めくくるのは、地球が焼き尽くされていくビジュアルと、「私は世界を壊してしまった(連鎖的な破壊を生み出してしまった)」というセリフだ。
大気中で化学連鎖反応は起きなかったが、人間が連鎖的に滅ぼしあう仕組み(いわばGadget)を作ってしまったというのが、彼の中での大きな罪になったのではないだろうか。

なお公開されている脚本も、タイトルは原題の「Oppenheimer」ではなく「Gadget」になっている。


▼余談
・IMAXで観たけど、いつもの「あの10カウント」無しで始まるの、初めて見た…
・冒頭のユニバーサルのロゴとかも、めちゃめちゃ横長スコープでびっくりした。全編こんなスコープサイズだったら暴れてた。
・毒りんごを奪って咄嗟に「wormhole(虫食いだ)」って言うのが、星の死や宇宙物理学を学んでいたオッペンハイマーにとって示唆的!
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