とらキチ

オッペンハイマーのとらキチのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
22億ドルの費用と3年の期間を費やした超国家プロジェクト“マンハッタン計画”。そこでリーダーシップを発揮し精力的に開発を主導したハンサムな伊達男オッペンハイマーは結局“道化”にすぎなかったのか。
過去の作品からもわかるようにクリストファー・ノーランという人は、相当なロマンチストなんだと思う。紙と鉛筆だけで自然現象などを説明し、かつ未知の現象に対しても予想する理論物理学者をテーマにしたのも、その延長線上のものだと思った。特にストーリー前半の思索時に挟まれる“原子の幻視”といったインサートカットからもそれを感じる。
これが19世紀以前であれば理論思索だけで済んだのが、20世紀という時代にその理論を実証する実験物理学が発達しそれが融合して、やがては人類が“プロメテウスの火”を持つまでになり、世界が変わってしまった、という強烈なパラドックス、アイロニーを描きたかったように感じた。それと後に“軍産複合体”と称されるような“組織”“システム”として走り出してしまったものに対しての“個人”の無力さ。今作はそれらを併せた相当なる“反戦映画”なのだと。
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