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オッペンハイマーのTakahisaHaradaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.3
原爆の開発を主導したにも関わらず水爆の開発には反対した男の葛藤、という時点ですごく惹かれる題材だし、オッペンハイマーの人生(特に戦後)についてあまり知らなかったので興味深かった。ただ、とにかく会話が多くて特に中盤あたりはかなり退屈なのと、ストローズのパート自体それいる?と思いながら観る3時間はしんどい…というのが率直な感想。

何となく知ったところでいい気はしないんじゃないかと思っていたのか、オッペンハイマーの人生について全然知らなかったので、水爆開発には反対していたこととかそれを理由に戦後は不遇だったこととか、すごく興味深いなと思って観ていた。
「物理学300年の集大成が大量破壊兵器なのか」というイジドール・ラビの思いも分かるし、「手にするのがナチスではいけない」というオッペンハイマーの思いも分かるし、正解がない上に地球の存亡を揺るがしかねない難題に挑む姿は見ごたえがあった。
映画をきっかけに考えてみたけど、第二次世界大戦以降戦争での死者数は激減しているし、核兵器による死者数も限定的で、結果だけ見ればオッペンハイマーたちの所業は劇中で言うところの恐ろしい連鎖反応とは真逆の平穏をもたらしているように思う。普通に考えたら核兵器を撃った土地に進軍することはできないので、侵略のために乱発するという使い方は考えづらいし、一発の威力のインフレを避けよう(=水爆開発反対)というオッペンハイマーのスタンスも支持できるものだと思った。

ノーランは「オッペンハイマーが原爆開発のその先を知っていたことを伝えたかった。先を見通せるからこそ負の結果を見通して、ジレンマの中にいた」と言っていたけど、映画から受けた印象は少し違った。
ナチスが降伏して、原爆開発も実用化に手が届くところに達していないと分かって目的を失っても自分たちの原爆開発を止めることはなかったし、衝動的に行動に踏み切ってからそれがもたらす最悪の結果だけは避けようと奔走しているように見えた。(冒頭の青酸カリの描写も事実なのかは置いておいてそれを示唆してる)

映画体験として印象に残ったのはトリニティ実験のシーン。実験成功の興奮とか爆炎の美しさとかを表した無音演出なのかな、と思いながら観ていて、音や衝撃波が遅れてくるという当たり前のことを忘れていたので普通にびっくりしてしまって印象に残ってる…笑

トルーマン大統領とのシーンもすごく印象に残った。「私は自分の手が血塗られているように感じます」は長崎への原爆投下に対する疑念とか、水爆開発に対する懸念とか、色々な葛藤が詰まった一言で印象的だったし、それに対するトルーマンの反応も背負ってる責任が科学者とは違いすぎるのでそうなるよなと思った。
聴聞会で疲弊するオッペンハイマーに対するイジドール・ラビの「食べろよ」も沁みるシーンで好き。

ストローズの存在は戦後のオッペンハイマーを語る上で欠かせないし、中立を装いながら主人公を執念深く貶めようとする役回りはインパクト強めだったけど、オッペンハイマーの葛藤だけで十分楽しめるというかそこが一番興味深いポイントなのでストローズパート(2.FUSION)自体いらないと思ってしまったな…。