巴里得撤

イニシェリン島の精霊の巴里得撤のネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

オスカーへのノミネート効果か、映画館には年配の客が多い。きっと「思ったのと違った」と思いながら、劇場をあとにした人も多かったのではないかなぁ。

イニシェリン島の「精霊」は、ほぼ「死神」と同義だし。

出だしこそ、ほのぼの感もあり、くすくす笑いながら観てたんだけど、コルムが自傷行為に走ってからは、映画は急に凄惨の度を強めていく。

で、「コルム狂った?」と思ってしまうんだけど、最後まで観るとそうではないことがわかる。

コルムがパードリックと絶好した理由は、ほかでもない、序盤にコルム本人がパードリックに通告した通り、「パードリックが嫌いになったから」だった。

いや、そもそも、コルムとパードリックが本当に親友だったかはわからないんだな。なぜなら、映画はコルムがパードリックを突然拒絶するシーンから始まるので。

「親友」だと思っていたのは、パードリックだけで、コルムは以前からパードリックを軽蔑していたんじゃないか。

鈍感で現実を見ず、何も生み出すことなく小さな島で朽ち果てることをよしとする俗人。

ぼくも最初はコルムの態度に当惑したけど、終盤になるとパードリックの他者に依存する性格や、度を越した自己承認欲求、執念深さ、人の気持ちを慮ることができない独善性が目につき始める。

そして、一線を越えるパードリック。

なんだ、狂っていたのは、コルムではなく、パードリックをはじめとするイニシェリン島の人々だったんだ。

海の向こうから聞こえる銃撃戦の音にコルムは心を痛め、絶望に蝕まれる。

一方、パードリックたちにとっては、内戦なんてひとごとなのだ。そこで、人が殺されているのに。


パードリックの妹がイニシェリン島の島民は悪意に満ちていると一度ならず指摘する。「そうかも」と観終わって思った。パードリックでさえも、もはや「ナイスな男」のふりはできない。

残念だけど、現実に向き合うということは、そういうことなのかも。ぼくら日本人もそろそろ、うまくいってるふりはできなくなってるし。
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