のあな

イニシェリン島の精霊ののあなのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.5
当初の原因から逸脱した争いとなり、熱くなって何を憎んでいたのか忘れてしまう点が実際の戦争と重なって、とても重たい話だった。戦争の縮図のような。

コルムの言った、優しさが残らないという話に肝を冷やした。わたしは小学生の頃、作家になりたいと思っていた。わたしの故郷はイニシェリン島ほどではないけれど少し田舎で、そのままその場所で死んでいくのが何か嫌だった。物書きになれば文豪たちのように何十年も、もしかしたら数百年に渡って自分の名前が残るんじゃないかと思った。それが自分の生きた証を残すことだと考えていた。

周りが社会のことを何も考えていなくて苛々することはたまにある。身近な話だと、大学で勉強をしたいのに翻訳を使って適当にレポートを書いたり、答えを教え合って理解しようとしなかったり、楽な授業だけを取り卒業する仲間はたくさんいる。でも、その部分だけを見て判断するのが正しいのだろうか。何かに精一杯で自分のことしか考えられない状況下にあるとき、自分の基準で人を見てしまいそうになる。でも、少し広く見てみたら。別の基準を持つと、誰が優れて誰が劣るのか、時にはひっくり返ることもあるかもしれない。

教養がない退屈な人間はパードリック以外にもたくさん島にいるだろうけど、コルムの中ではパブの店主たちはパードリックよりも少し上にいるのかな?
パードリックは絶交宣言されてもめげずにコルムを信じ続けるけど、実際の人間関係では所詮他人だし、人が変わることはよくある事だから波長が合わないときは離れるのが一番。
結局島に固執するパードリックは、古い記憶を捨てられないのだろうか。

シボーンはかなり知性的で、そのシボーンがパードリックを愛していたのは家族だからっていうだけじゃなくて、パードリックの人格が好きだったんじゃないか。

ドミニクのキャラがなかなか良かった。シボーンとの会話の場面は少し怖かったけれど。
犬が何だったのかは未だにわからない。
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