えいがうるふ

マリー・ミーのえいがうるふのレビュー・感想・評価

マリー・ミー(2022年製作の映画)
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*注 作品自体の個人的な評点は決して高くないものの、鑑賞環境への個人的な思い入れにより全て相殺されてしまうためスコア不能という珍しいパターンです。


トレイラー映像だけでお腹いっぱい。ギンレイで予告編を観る度に「つまんなそう・・」と思っていた。
普段なら配信でも間違いなくスルーするこの作品を敢えてスクリーンで観るために足を運んだのは、(移転のため)閉館の決まったギンレイホールが何故これを最終上映作の2本のひとつに選んだのか知りたかったからだ。

果たして、鑑賞後の感想を一言でいえば予告編から想像した展開を超えるものは何もなく、やたら冗長でお金のかかったジェニファー・ロペスのPVでしかなかった。
同世代の女性として彼女に憧れるところが何一つ無いのも共感性に欠けた一因か。実年齢を意地でも認めないようなパワーとバイタリティで外見も中身もパッツパツの必死の様相よりも、年相応の自然な美しさや大人の知性や落ち着きを感じる言動の方に惹かれるため、主人公が魅力的に映らなかった。
ましてリアリティなんて元から期待していないが、金と名声の力を見せつけるセレブあるある演出をちょいちょい入れてくる度に、あーはいはい結局それですかとうんざりした気分に。
とりあえず、ファン垂涎のゴージャスなステージを含め歌シーンは満載なので、パーティ等でBGVとして巨大スクリーンに流しとけば賑やかしには最高だろう。


ハリウッド大作からミニシアター系のカルト作まで、これまで選りすぐりの音楽系映画を多く上映してくれたギンレイホールには心から感謝しているが、その締めくくりがこれというのは正直なところ個人的には残念だった。

最終上映だからこそ、昔ながらの映画らしい映画、つまりひたすらきらびやかな虚構に満ちたファンタジーで、この世知辛い現実をひととき忘れる至福の時間を過ごしましょう、という意図であえて選ばれた一作だったのかもしれないが、果たしてその想いは目の肥えた往年の映画ファンやギンレイの渋いラインナップにこそ惹かれていた若い常連客に響いただろうか。

そもそもギンレイ常連のシニア層に刺さる内容とは思えなかったが、案の定、最終日の客席は同時上映の「君を想い、バスに乗る」がほぼ満席の大盛況だったのと対象的にこちらは一気に空席が目立っていて、余計に切なくなってしまった。


それでもよくよく考えてみれば、最後がこの作品だったからこそ、ギンレイホールの懐の深さを最後に改めて思い知らされたという気もする。
ギンレイ・シネマクラブという、年間たった一万円で通い放題という、今どきありえない超太っ腹なサブスクシステムがあるのがここの映画館の最大の特徴だった。
こうした個人的な好みによる当たり外れも余裕で許せる、この素晴らしいパスポートシステムがあったからこそ、先入観に囚われず興味ないジャンルでもどんどんスクリーンで鑑賞することが出来、結果的に全く知らなかった多くのお気に入り作品と出会えたのだ。

もちろん、この映画館のお気に入りポイントは他にも山程あるので、もしここの常連同士で「ギンレイホールを語る会」なんてオフがあったら夜通し語り合ってしまうに違いない。

ともあれ、だ。
ありがとうギンレイホール。
世界で一番お気に入りの、素晴らしい映画館でした。
またいつかきっと、会えますように。