koss

穴のkossのレビュー・感想・評価

(1960年製作の映画)
4.2
ジャック・ベッケルには多彩なスタイルやジャンルの作品があるが、遺作がフィルムノワールなのは面白い。ここでもベッケルの構図や人間関係、細部といった独自性が発揮され、脱獄ものの領域を超えてしまう。

タイトルが象徴する脱獄の企ての穴掘りの緊迫感が凄い。床板外しに始まり、手作業の土台割り、セメント崩しと崩落、看守から隠れる肩車、扉の芯棒外し、時間を知る砂時計など没入を促す細部が効果的だ。

フィルムノワールたるべき暗い穴の中を行く先頭の光の縦構図は、刑務所内の縦構図と対比をなし、手作りの片側潜望鏡の縦視線につながる。地下水道は当然、縦を走る。

人間関係も複層である。新入りが加入する房内の盟約関係の一瞬の揺らぎ、実行の協力関係、一人離脱する仲間、配管工の窃盗を問い詰めさせる看守との関係。(ベッケル定番の平手打ちは配管工に浴びせられる)そして物語に意外な結末をもたらす新入りと所長との関係。脱獄ものにある反逆や抵抗、執着心や達成感とは異なるドラマが創り出される。

やはりベッケルは素晴らしい。各作品でジャンルの極点を示してしまうから。
koss

koss