未島夏さんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

地下鉄のザジ(1960年製作の映画)

4.2

ザジとその周囲を取り巻く大人達の都会の喧騒に対する体感速度の差異が、ジャンプカット、コマ送り、コマ落とし、早回し等をフル活用しながら目まぐるしく活写される。

可笑しく、可愛らしく、時に生々しく、突如
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ダンケルク(2017年製作の映画)

3.8

フィクション思考の映画産業から踵を返し、「総合芸術」として事象へのリアリズムを追求する事に傾倒した傑作。

映画への原体験に立ち返りながらも導入されたIMAX仕様は、映像は勿論音に対して多大な表現力を
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三度目の殺人(2017年製作の映画)

4.0

これ程までに観客の作る張り詰めた空気を皮膚から実感した事は嘗て無い。
役所広司演じる三隅の激情が初めて綻んだ瞬間、劇場が確かに凍てついた。
なんだあの目は。

サスペンスは状況説明の重要性が高い為、従
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散歩する侵略者(2017年製作の映画)

4.1

この映画の主題を言語化し切る事はこの映画を否定する事にもなり兼ねないが、そうならない範囲一杯まで自身の価値観に従ってこの傑作映画へ言葉を絞り出したい。

人間によって複雑に言語化された「概念」の本質的
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トリガール!(2017年製作の映画)

3.9

今年、鑑賞後気持ち良く劇場を出られる映画暫定ダントツNo.1。
パイロット二人のアグレッシブな怒涛の掛け合いが、ヤケクソなまでに力業の編集テンポと空撮の堅実な雄大さに乗って空のどこまでも駆け抜ける。
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パターソン(2016年製作の映画)

3.9

主人公パターソンの日常、そのある一週間。
タクシードライバー、愛する妻、愛犬マーヴィン、詩を綴るノート、マッチ箱、夜の散歩、行きつけのバー…

日々の反復を愛おしむ半面で、僅かな変化の機微に表れる不安
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博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(1964年製作の映画)

3.9

前置きでアメリカ空軍による喚起のテキストが流れるが、2017年現在においてはこれすら皮肉ではないかと思える。

何とも下らない一人の人間による偏見の暴走が冷戦下の米ソを熱して世界の破滅へ転がる様子を、
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汚れた血(1986年製作の映画)

3.9

表情と体の躍動に凝縮された、人間が持つ一瞬の美しさ。
そこに示唆された人物の想いとその交差が、詩的にも変換し難い煌めきを焼き付ける。

月並みだが、David Bowieの「Modern Love
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ボーイ・ミーツ・ガール(1983年製作の映画)

3.9

夢の世界だと実感すればする程、この映画の凄味に嵌まり込む。
不整合なシーン構成、唐突な情緒の破裂、フォーカス外の暗闇と物体感、モノクロと静寂。
辻褄からの解放が心地良い。

打ち解けた女性と電車に乗っ
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スノーデン(2016年製作の映画)

3.7

この映画の本題を真正面から評せる知識量には到底満たない自身までもが、映画というフィルターを通して常時事実を体感し、戦慄する事が出来る。
驚愕の事実をここまで身近に感じる事が出来る程にしたスノーデンの「
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サイコ(1960年製作の映画)

3.9

物語の主導権を握る人物が何度も代わり、それに応じて目的への目線も自在に変化していく。

恋人との将来の為10年勤めた会社の金を奪う女の逃避行を細部までスリリングに見せる事で、観客へ物語の構造に対する先
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ワンダーウーマン(2017年製作の映画)

3.7

アメリカン・コミック原作の娯楽大作でありながら、厳格な戦争映画としての意義も突き立てる意欲作。

神話という語り草に囚われるダイアナは確かに無知で未熟だが、同時に人間社会へ真の客観視を向ける事が出来る
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椿三十郎(1962年製作の映画)

4.0

「用心棒」以上に主人公の葛藤を明確にさせる、女性像の介入と対比が際立つ。
また「用心棒」と比べ非常に娯楽精神に溢れ、殺陣シーンの増加は勿論、直情的な若侍9人と三十郎の一悶着には「対立」という位置関係へ
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用心棒(1961年製作の映画)

3.8

殺陣、アクションの消化において勧善懲悪の型を一貫しながら、三十郎が自らの善行や貧民の善良さに苦悩する様子が次第に浮き彫りとなる。

三十郎を完全な正義とせずエゴイスティックな内面を曝け出す事で、成敗さ
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ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)

3.8

伏線の配置を気配も無く遂行する脚本の機転が効いた映画だが、その伏線どれもがアクションへの娯楽的快感ではなく人物の背景、心情へと収束する事へ更なる感慨がある。
作品へのジャンル想定を、叙情的な優しさを帯
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ベイビー・ドライバー(2017年製作の映画)

3.9

映画館で観るとうっかり身体を揺らしてしまい周囲の観客に怪訝な表情で見られるかと思いきや隣の観客も前も後ろもノリノリだった。
…ともなり兼ねない超絶爽快ドラッグムービー。
※鑑賞を妨げる行為は一瞬たりと
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夏至物語(1992年製作の映画)

3.5

女の怠惰と部屋の蒸し暑さが眉をひそめる程画面に犇めく中、その女の独白にて語られるのはストーキング相手である男の異常なまでに詳細な一日の行動パターン。

女はただ自身の独白の元、向かいの男の家をビデオで
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ホーリー・モーターズ(2012年製作の映画)

3.8

役者オスカーが9つのアポ(演技依頼)で多彩に演じ分けて見せる部分と、楽屋となるリムジン内で見せる素顔の境界線が、オスカーの演技に宿る真実味とSF的世界観の作用にかき消され、曖昧さを増していく。

極め
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打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(2017年製作の映画)

4.1

思春期の複雑な葛藤から生まれる失敗への後悔。
その時誰しもが切望する「if」を並行世界で叶えてしまった主人公の歪な世界が、何処へ向かい何処で終着するのか。

原作ドラマのコンセプトである「if」を並行
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少女ファニーと運命の旅(2016年製作の映画)

3.9

少年少女9人の人物造形と集団的スリルをロードムービーの形式へ的確に纏め上げたこの魅力溢れる冒険譚が、決してあるべきではないユダヤ人虐殺の史実を元に成立している事へ激しく切迫する。‬

‪社会の理不尽と
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フェリシーと夢のトウシューズ(2016年製作の映画)

4.0

‪傑作アニメーションがフランスから飛来した。‬

真夜中に決行される施設からの脱出と逃避行によるスリル。
フェリシーとヴィクター二人の隔ての無い共同体的な距離感。
二人を出迎える建設中のエッフェル塔。
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ゾンビ/ディレクターズカット完全版(1978年製作の映画)

3.9

‪※鑑賞バージョン/米国劇場公開版‬

‪終始途切れず展開されるサバイバルの渦中で、ゾンビの「本能的侵略」に呼応した人間の「本能的欲求」が露呈する。

‪種族による区別を持ち出しゾンビの存在を嫌悪し
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ダイ・ビューティフル(2016年製作の映画)

3.7

登場人物の状況や心理の移行に合致させた時系列のシャッフルが効果的。

‪激動の生涯を送るに至ったトリシャの人物造形が、華麗なミスコンの世界とは裏腹に飾り立て無く浮かび上がる。

‪葛藤の着地が無い
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ブレードランナー ファイナル・カット(2007年製作の映画)

3.8

単純明快なストーリーの目的をややスローテンポに追う事で、混沌とした街の景観や人物の心理状況への肉薄が強調される。

色取り取りのネオンが艶やかしい派手な映像とは対照的に、葛藤を感情的な表現に預けず、台
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天空の城ラピュタ(1986年製作の映画)

4.4

ボーイ・ミーツ・ガールの原石の様な、蒼きイノセントを纏った名作。

人物構成とその配置によるプロットの移行、積み重ねが完璧。
たった124分が、こんなにも壮大で胸膨らむ大冒険へと変貌する。

自然との
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ある優しき殺人者の記録(2014年製作の映画)

3.6

ホラーの成立へ徹する為結果的に殺人を正当化してしまっているのは頂けないが、ラストにある救いの顛末には不意をつかれた。

日本人カップルの痴態は、緊迫感と綯い交ぜが過ぎる為笑いよりも困惑を誘う。

カメ
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ディア・ハンター(1978年製作の映画)

3.8

出征前を描く序盤に展開される煩わしい程の喧騒も、ロシアンルーレットの凄惨な狂騒を経て尊さに満ちる。

戦火が無残にも焼き払うのは物理的な生命に留まらず、残された人間の魂そのものである事を、痛切に語り掛
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ネオン・デーモン(2016年製作の映画)

3.2

‪「人は言われたことを信じるものよ」という言葉を体現するが如く、エル・ファニング演じるジェシーの「特別な美」を特異な演出以上に台詞で印象付けてしまうのが、安易な誘導で頷けない。

‪ジェシーの自己陶
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ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(2016年製作の映画)

3.6

‪レイ・クロックの主観にフォーカスしながら、行動の善悪は問い詰めず傍観する脚本。‬

‪その冷淡さは、人物が織り成す「根気」を素早いカッティングで見せる映像の熱量とは対照的。‬

‪双方の温度差が、人
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ビニー/信じる男(2015年製作の映画)

3.7

導入でビニーとケビン二人の出会い、そしてチャンピオンを取るまでの奮闘をサクセスストーリーとして見せる事で、ビニーの事故後における二人の関係性に一層鮮やかな血が通う。

復帰戦とその結果、及び結末にある
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NERVE ナーヴ 世界で一番危険なゲーム(2016年製作の映画)

3.8

学校内の人間関係が生み出すフラストレーションや集団心理により、加速度的にナーヴの渦中へ転がり込む主人公ヴィー。

日常を逸脱したスリルとイアンとの出会いによる吊り橋効果が、危ういシンデレラストーリーを
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ふたりの旅路(2016年製作の映画)

3.6

異国ラトビアのリガで巡る夫との再会は、却って孤独への実感を増幅させていく。

夫婦二人の生々しくユーモア溢れる会話に笑わされるが、物悲しさも付き纏う。

カタルシスであるシーンを終盤ではなく序盤に置く
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劇場版ポケットモンスター キミにきめた!(2017年製作の映画)

3.9

20年間で蓄積したシリーズの「経験値」を力強く踏襲しつつ、虹色のポケモンを追うロードムービーとしてその世界を「再構築」した、決意ある傑作。

嘗て無い程の意欲的な心理描写とそれに付随する映像アプローチ
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サマータイムマシン・ブルース(2005年製作の映画)

3.8

直感的で健全な男5人組がタイムマシンを手に入れてしまう危うさと可笑しさが、下らないウィットの効いた会話と行動で弾けながら転がって行く。

タイムトラベルする最大の理由がエアコンのリモコンを直す事な時点
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思い出のマーニー(2014年製作の映画)

4.4

「アニメーション」による感情表現の極致。
どんな些細な身振りにも、その人物が確かな感覚と共に宿る。
背景美術の壮観も然る事ながら、「人物」を描く覚悟と執念に満ちている。

クライマックスからエンドロー
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ポンヌフの恋人(1991年製作の映画)

4.3

エゴイスティックが故に、何処までも高純度な愛の方角。
それを互いへ突き刺し合う男女が生み出す、あまりにも圧倒的な映像の爆発。

衝動の刹那を捉えた描写、映像、その一挙手一投足。
完膚無きまでに打ちのめ
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