未島夏さんの映画レビュー・感想・評価 - 8ページ目

リリーのすべて(2015年製作の映画)

3.8

自らの性に疑念を持たない人こそに、この映画を目撃してほしい。
スクリーンを絵画的に見せる様凝らされたあらゆる被写体に対する画角や位置の拘り、その視覚的美しさは勿論素晴らしい。
しかし最も美しいのは、「
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ロブスター(2015年製作の映画)

3.8

他人への愛情が何かに対する手段となった時、人間の心理がどう動くのか。

心の彷徨いを笑えないようで笑えてしまうジョークを挟みながら、特異な世界観にも関わらず意外にも簡潔に綴っていく奇妙な作品。

解釈
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東京物語(1953年製作の映画)

3.9

無自覚の酷。
家族間にある煩わしさが静かに容赦なく描かれ、理想と現実が滲んでゆく。

家族への愛情を直接的に描くよりもよっぽど、その在り方を問われる。
そんな中で老夫婦が語らう家族への想いに、一瞬安堵
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屍者の帝国(2015年製作の映画)

3.7

魂への概念や解釈に対する咀嚼は勿論この映画の肝だが、その作品性からは予想出来なかった様なロードムービーとしての娯楽性が非常に高い脚本だった。

イギリス、インド、アフガニスタン、日本、アメリカ。
5つ
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スティーブ・ジョブズ(2015年製作の映画)

3.8

ジョブズの創造的人生をたった3つのターニングポイントを用いた「会話劇」のみで描き切る大胆不敵な構図。
その会話には開発者としての機転や行動力は勿論だが何より罵声の連続で、他者との衝突、決別の跡が無数に
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死刑台のエレベーター(1958年製作の映画)

2.6

良くも悪くも雰囲気を味わう映画で、脚本としての面白みは正直あまり感じない。

エレベーターに閉じ込められるまでの導入はこれからの展開を期待させる要素に溢れていたが、エレベーターから出るまでがとにかく長
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キャロル(2015年製作の映画)

3.8

しがらみと正しさの社会で漂い流される中に落ちてきた出会い。
その前に理屈は消え失せ、ただ求める。
揺れ動く画が彼女達への視線、視点として鬱屈とした日々と束の間の逃避行を捉えていく。

一度は別れ行くも
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オデッセイ(2015年製作の映画)

3.6

この映画を観る大抵の人間は宇宙という空間を未経験に違いない。
しかしそれでも、火星に取り残された主人公ワトニーの生きる苦しさが生々しく分かってしまう。
そしてだからこそ、絶望的状況ながらも科学者として
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カラフル(2010年製作の映画)

3.6

主人公である真の家族間にある物言わぬ亀裂の様子と終盤の好転、友人となる早乙女との関係性等にはとてもリアルで描写の妙を感じる。
しかし反面で唱子やひろかといった女子生徒は背景が全く見えて来ない。

天使
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星を追う子ども(2011年製作の映画)

3.9

新海誠監督作品の強みである繊細な情景や日常描写が光る導入がある事によって、アガルタという異世界へと足を踏み入れる際の世界観への緩急が効いていて、ファンタジーとしてとても良い。
道中で旅の仲間が増えてい
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ハル(2013年製作の映画)

3.3

一見人物の感情が軽々しく動き過ぎている様にも感じるが、ラストまで見ればそうでは無いのだと、腑に落ちてくる。

木皿泉脚本作品らしい可笑しくも愛らしい世界観やセリフ回し、小道具の使い方はアニメーション作
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パーフェクトブルー(1998年製作の映画)

3.9

娯楽作品として事件解決までの道筋や犯人判明にしっかりとカタルシスを感じさせながらも、物語に没頭する観客をいつしか主人公が体感する現実と虚構の区別のつかぬ螺旋に陥し入れる。

犯人にとって犯行動機となる
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サカサマのパテマ(2013年製作の映画)

3.8

構図的「逆転の発想」。
逆さまの世界への肯定と否定が衝突し、やがて重力に線引きされた二つの世界を飛び越えて行く冒険活劇。
物語は終始その構図に対して忠実であり、どんなシーンも鮮明に映る。

普遍的でプ
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ガラスの花と壊す世界(2016年製作の映画)

3.5

正しく実体を持つ人間は物語にほとんど登場しないが、その人間から生まれゆく感情というものが崩壊へ向かう世界に精通している様子が根本として描かれていく映画。

「知識の箱」という表面上は無機質な空間故の平
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素晴らしき哉、人生!(1946年製作の映画)

4.1

それはまさしく人生賛歌。
「人を幸せにする映画の金字塔」かもしれない。
今までも、そしてこれからずっと先までも、この映画に救われる人間がどれだけ居るのか計り知れないだろう。
新しい生活が始まったり、恋
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風立ちぬ(2013年製作の映画)

4.6

堀越二郎の半生が、宮崎駿監督自身の経験と側面を彷彿とさせつつ、夢に立つ幼少期から零戦の完成、そしてその後の想いまで描かれる。

時に戦争の道具ともなる飛行機を作りたいという想いを「呪われた夢」だと理解
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魔女の宅急便(1989年製作の映画)

4.5

13才で家族の元を離れ、魔法使いの修業へ期待に満ちた笑顔で旅立った明るさ満天の少女は、見知らぬ地を踏みしめ出会いや失敗を重ねいつしか普遍的な思春期の葛藤を抱き始める。

笑顔を振りまいていた彼女が感傷
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完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)

3.7

「盤上の第三次世界大戦」を描くが、物語の芯は試合そのものではなくボビー・フィッシャーの人間性とその苦悩をいかにして描き切るかにある。

フィッシャーの歴史的勝利に歓喜する人間には決して見えない彼の虚無
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サマーウォーズ(2009年製作の映画)

4.5

古典的な勢いのある展開を、仮想世界と現実世界を行き来する多様な表現に対してフル活用する事で生まれた奇跡的な114分。

人物のキャラクター性を展開の切り返しにテンポ良く利用しまかり通すことで、膨大な情
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四月物語(1998年製作の映画)

4.1

「四月物語」という題に相応しく、北海道から東京の大学へ進学し上京、新しい出会い、新しい環境での拙さーーーといった新生活の始まりにおける様々な心の揺れ動きを終始描く。
美麗な春の景色で主人公の卯月を祝福
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予告犯(2015年製作の映画)

3.5

漫画原作の作品によく見られる「過剰」な人間社会の影に対する描写がとても強く出ている物語な為、演出や脚本のセリフ、そしてその演じ方一つ一つに慎重さが求められる難しい原作に感じた。
しかし、生田斗真演じる
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劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(2013年製作の映画)

3.7

総集編という役割の中に、TVシリーズのエピローグ的位置の物語が緩やかに溶け込んで展開されていく。
登場人物に対して割と踏み込んだ心情の補完がされていて、TVシリーズを見た人なら改めて感情移入し直せるシ
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グランド・ホテル(1932年製作の映画)

3.8

「グランド・ホテル形式」、所謂群像劇の構図の基盤になった作品として有名なこの映画をようやく初めて鑑賞。

自分なりに気付いた点としては、人物の葛藤や交差よりもまず、作品の舞台設定、シチュエーションから
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バクマン。(2015年製作の映画)

4.2

脚本として最初の道筋はサクセスストーリーのど真ん中を行くものだが、それを辿る物語が漫画家志望の高校生を描く事であるのを存分に活かした表現力、アイディアの光る描写が散りばめられ、やがて物語は主人公二人の>>続きを読む

亜人 第1部「衝動」(2015年製作の映画)

3.5

バトルシーンの画、そして何より音にとても力のある映画。
一連の動作で目立って珍しい動きが繰り出される訳ではないが、バトルシーンへ移行する際の臨場感溢れる音の効果的な使い方を初め、亜人同士での対峙、亜人
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レオン 完全版(1994年製作の映画)

3.9

殺し屋レオンという人間はもっと冷徹なキャラクターをイメージしていたが、その想像よりもずっと弱さを隠し持つ人間臭さのある人物で、その様子が静かに、包み隠さず描かれていた。
マチルダのイメージは概ね予想通
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ハーモニー(2015年製作の映画)

3.8

人間という生物の「個」は、偏った「色」の中で生きてはいけない膨大な量の感情と理性を持つ。
「ハーモニープログラム」はそれすらも意識の操作によって統制、管理することで「個」を奪い、均衡を保つ。
ピンクや
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グラスホッパー(2015年製作の映画)

3.3

原作未読だった為、てっきり主人公の鈴木が繰り広げる逃走劇に主軸が置かれるスピード感のある作品なのかと勘違いしていたが、実際の所はかなり丁寧にパート分けがされた、群像劇という構図を貫いた作品。
鈴木はあ
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マエストロ!(2015年製作の映画)

3.5

音楽にどれだけの力があり、どこに惹かれるのか。
それに登場人物であるオーケストラ奏者たちが次第に気付き思い出し、観客も同じく実感していける様な、音楽という題材を扱うに相応しい楽しさや力強さのある作品。
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パルプ・フィクション(1994年製作の映画)

3.7

「会話」という物の根幹を抉り出す映画。
物語に対して常に脈略を持たせ、次の展開へ誘導していくセリフを並べるのではなく、そのシーン一点で対峙する人間同士の間に張りつめる、複雑に入り組む感情や空気をいかに
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ポテチ(2012年製作の映画)

3.7

奇妙な登場人物の関係を楽しむ物語としての娯楽性を前面に出しながら、主人公の家族間にある大きな一つの綻びがそっと置いていかれ、観客の心に穴を開ける。

元には戻せない歪みを抱えながらも、ラストは一つの優
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重力ピエロ(2009年製作の映画)

3.6

伊坂幸太郎原作にしては観客の気づきを作る場面や伏線の張り方が緩やかだけど、それが優しくシーンを演出していて涙出来る。
画の表現もとても分かりやすくされていて、複数回見ることに意味を持てる構成。
唯一
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天空の蜂(2015年製作の映画)

4.0

知識や認識が自分にはまだまだ足りないと思うので、この映画の社会的言及自体に深い感想を入れるのはあえて避けるが、その側面を人と人、一対一の血の滲む対峙に持ち込むまでの構図や登場人物全ての繋がり方がとてつ>>続きを読む

言の葉の庭(2013年製作の映画)

3.8

季節表現とモノローグに乗せ叙情的に伝える葛藤。
その詩的な描写の中に抑圧していた感情が溢れ出てぶつけ合うラストは、まさにその時晴れ上がる空に相応しい。

念密なモノローグによって感情表現が構築されてい
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秒速5センチメートル(2007年製作の映画)

4.5

過去と決別出来ず彷徨う様に生きる貴樹との対置として、この映画で一番成長してるのは花苗であり、明里も過去を振り返りはするがしっかり前を見て現実を歩いている。

「秒速5センチメートル」は男性のロマンチス
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心が叫びたがってるんだ。(2015年製作の映画)

3.8

主要人物4人の結末は凛としていて爽快。心解され前向きになれる映画だった。
本当に言いたい事を伝えたりぶつけたりするのは勿論、それに一喜一憂し、表情を変え、受け止めてくれる相手が居ることへの何よりの喜び
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