シズヲ

少女終末旅行のシズヲのレビュー・感想・評価

少女終末旅行(2017年製作のアニメ)
4.5
少女二人、ポストアポカリプス的な終末世界の旅路。所謂ロードムービーめいた内容で、同時期の作品とは一線を画す独特の趣に満ち溢れている。果てしなく広がる荒廃した世界観を下地に、ひたすら女の子ふたりの掛け合いと探検に終始している内容がやっぱり印象的。世界が滅んでいるという絶望的な状況の筈なのに、チトとユーリの旅路は何処かユーモラスですっとぼけた味わいに満ちている。ゆるくて可愛らしいタッチの絵柄がそんな空気に拍車を掛ける。

BGMによる演出を徹底して抑えた静寂な空気感、工業化の痕跡がふんだんに遺された近未来文明の情景、戦争の爪痕がちらつく描写の数々など、SF的退廃美に満ちた映像のムードがとにかく秀逸。そこにチトとユーリの掛け合いが乗っかることで、全編に渡って奇妙な心地よさと仄かな物寂しさが漂っている。文明崩壊後の世界を舞台にした“ほのぼの”と“寂寥感”の共存、まさにこの作品の味で何よりも印象深い。アニメ版もこの部分をしっかり大切に描いてくれていることが伝わってくる。

二人はしょせん世界の真実なんて知る由もない。過去に起こった戦争の輪郭をなぞることはあっても、その真相を探究するような展開になったりはしない。ただ宛もなく何処かを目指して旅を続けて、ひたすら二人で駄弁るだけで終わる。そんな流れが抑揚もなくローテーションのように描かれる。旅の果てに希望ある終着点が待っている訳でもないし、そもそも世界自体が滅んでいるので結局のところ徒労の歩みに過ぎない。チトとユーリが繰り広げる旅行は、究極的に言えば“緩やかな死へと向かう放浪”でしかない。

それでも二人は“生きることへの充実感”によって満ち足りているのがとても愛おしい。今こうして生きている自分達について、自分達が歩いている世界について、チトもユーリもちゃんとそれなりの思慮を持ち合わせている。ゆるいノリで哲学めいた問答だってする。その上で二人は今を満喫して、気楽な歩調のまま“生きていくこと”を前向きに肯定している。漠然とした閉塞感の中で「絶望と仲良くなろうよ」と言える暖かさ。優しい物語なのだなあ。
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