次郎

ぼっち・ざ・ろっく!の次郎のレビュー・感想・評価

ぼっち・ざ・ろっく!(2022年製作のアニメ)
4.9
ライブ演出と音楽が本当に自分の琴線に刺さり過ぎて、ライブシーンはもう100回くらい見直した。先駆者としての『けいおん!』は全く通っておらず、再開発後の下北沢が舞台というので何となく興味を持って観たらこんなどハマりするとは…
原作の漫画時点での時からネットミーム的な笑いはキレッキレだったけど、アニメではぼっちの奇行や妄想を実写ボードゲームや謎CG、サイケな映像とアニメでありながらアニメ以上の演出でやりたい放題やってて最高だった。1クールで1巻半というゆっくり目の進行ながら、原作者が脚本会議にもかなり関わったという内容はアニメと原作を相互保管するような理想的な関係となっている。

ただ、それよりもやはり語られるべきは描かれた楽曲の数々で、以下楽曲別にコメントを。

■ギターと孤独と蒼い惑星(5話)
初のライブ映像となる曲だけど、イントロのスティック捌きからして「あ、これ実際の演奏をトレースしないとできない描き方だ」ってわかってテンション上がる。ギターの運指だけでなく、ドラムが途中でブレイクしている時も左足でしっかりリズムキープしていたり、スピーカーから出る音の振動で震えるペットボトルの絵とかもう「わかっている」感120%でこっちまで震える。音楽についてもこれまでOPや1ー3話までのEDはアニソン的ポップさを醸し出していたのに、本曲で一気にギアを上げてきて「思った以上によくないかこれ?」と思い始めたのがこの辺り。

■カラカラ(4-7話ED)
イントロの「5xn+6」というトリッキーなイントロから清涼な歌声に入る導入、山田リョウのvo曲として解釈完璧過ぎない??他の曲の感想では入りきらなかったけど、一貫してルート引きを殆ど演らず、終始動き続けるベースは全曲通じて個人的に好き過ぎる部分。いいバンドの条件ってのはねぇ、いいベースのフレーズが曲中に必ず存在してるんですよ(力説)


■あのバンド(8話)
エフェクターで歪みをより強調してかき鳴らされるイントロに、次第にディレイとリバーブが入っていく展開だけでもう最高…。BPM190の速さは「ギターと孤独と蒼い惑星」と同様ながら、裏拍を強調したフレーズは演奏難度がより上がっていながらもフレーズの格好良さも増長して刺さること刺さること。リズムもこのBPMで裏拍ハイハット入れながらベースが縦横無尽なフレーズを入れてくるの良過ぎる、ほんと良過ぎる。ぼっちがソロに没頭する時に猫背になっていく姿にはナンバーガールの田淵ひさ子を思い出してしまい、思わず02年の解散ライブの映像見直したら思った以上にまんまで、OMOIDE IN MY HEADのアウトロの姿が完全に一致して思わず涙。

あと、この曲については所謂鬱系ロックの系譜を継承した歌詞の世界観も最高で、「あのバンドの歌がわたしには/つんざく踏切の音みたい」という部分で踏切みたいなフレーズを入れてくるギター、そこから「背中を押すなよ/もうそこに列車が来る」というダブルミーニングをぶつけてくる展開、1番では「あのバンド」を卑下しながら2番では反転して「あのバンドの歌が誰かにはギブスで/わたし(だけが)間違いばかりみたい」と自己嫌悪に陥りそのままサビに入る展開とか、歌詞と構造がきちんと繋がっているのが本当に素晴らしい。これで作詞作曲編曲全部別の人の担当って凄いな。OP曲のCメロでは「虎になりたい」と直接的に山月記を連想させていたけど、本曲ではその主題である「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」がこの上なく表現されている。

■星座になれたら(12話)
これまで散々ライブハウス映えする轟音ギターをやってきたのに、ハイライトである文化祭では一点the band apart的おしゃれ16ビートの爽やかロックを決めてくるの反則過ぎない???露骨なまでに「天体観測」オマージュで関係性を描く赤裸々な歌詞もさることながら、歌詞と照応して喜多ちゃんギターソロの箇所でカメラがぐるっと回りこむ、所謂「オービットショット」が使われるのもモチーフの一貫性が通底していてびっくりする。このシーン、当たり前のようにライブ感あるショットでさらっと流しているけど、2次元のアニメで背景を動かすこの構図やるの無茶苦茶難しくない?
また、ぼっちのギターソロが終わった後、「遥か彼方/僕らは出会ってしまったよ」の歌詞の部分で、初めてぼっちが喜多ちゃんと同じように8分のカッティングを刻み出している所、演奏でも初めて二人が同じフレーズを鳴らしていることで「出会って」いる展開がもう尊過ぎて尊くて、ね…


■転がる岩、君に朝が降る(12話ED)
1話と最終話のタイトルで循環を描きながら、最終話EDでぼっちボーカル、しかもキャラクターの苗字引用元からのカバー曲で原作者直々にこのチョイスという完璧of完璧なセレクション。「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」そのまま歌声にしたかのような、巧みながらも震えるように歌い上げきらないボーカルの方向性、これまでライブハウスという舞台上夜や室内を多く描いてきた最後に、本曲と合わせてラストカットでバッキバキの朝焼けを描く終わり方。最高。もう言い残すことは何もありません…
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