次郎

チェンソーマンの次郎のレビュー・感想・評価

チェンソーマン(2022年製作のアニメ)
3.2
「刺身にするだけで旨い魚を、どうしてわざわざ焼魚定食にして出すような真似をするのか…」とずっと文句を言いながら観ていたような。画力の不足を巧みな構図と展開の巧さ魅せていった原作に比べて、予算が贅沢にあるが故に必然性のない演出と音楽に費やされてしまった本作は機会の損失としか言いようがない。『ピンポン』や『平家物語』では最高の劇伴を聴かせてくれた牛尾憲輔の選択は完全に発注ミスで、温かみのあるエレクトロニカを得意とする音楽はそれ自体は文句のない仕上がりながら、優しさが隠しきれない楽曲は完全に自分のイメージと乖離していた。
見所であったはずの戦闘の映像についてもポン刀ヤクザとのシーン以外は正直印象に残らず、終始手堅くまとめました感あるそれに「チェンソーマンはねぇ…もっとやること全部メチャクチャじゃなきゃダメなの!」と厄介オタク全開な感じになってしまった。

ただ米津玄師によるOP曲「KICK BACK」だけは本当に完璧で、イントロの太いベース音に重なるファンキーなハモンドオルガン、そしてチバユウスケ風にかなりたてるボーカルという掴みは満点だし、そこから吐き出される語彙力の貧しい歌詞は正しくデンジの言葉そのもの。数々の映画のオマージュを塗したOP映像も、チープな演出でシュールな笑いを誘うMVも本作の世界観を滅茶苦茶に表している。特にMVのイントロで『ソー:ラブ&サンダー』張りのクソだっさい80s風ロゴが出る辺り、原作のスカム感を本当に理解している。というかさぁ、本編最後の最も重要で印象的な煙草のシーンにしても、漫画の通り字幕を出すことで一つの演出として成立しているのに、何でそれをやらないのか…とただただ残念な気持ちになってしまった。どれだけOPで引用を散りばめても、本編での演出が貧しいとただの文脈なき切り貼りにしか見えなくなるから本当に辛い。とりあえず、タランティーノの『レザボア・ドッグス』とコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』を観るところから始めようぜ。
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