レインウォッチャー

PLUTOのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

PLUTO(2023年製作のアニメ)
3.5
期待に応えてくれた、良い面もそうでない面も。

『鉄腕アトム』でも屈指の人気エピソード『地上最大のロボット』編を、手塚プロ全面協力のもと浦沢直樹が現代風にリアレンジ、読み応えあるSFサスペンスに仕上げた『PLUTO』。

連載終了から14年ほど経ってのアニメ化となり、アニメーションとしてのクオリティは超盤石で、美術・演技・音楽、どれも魅力的。
原作(浦沢版)をかなり精密に再現していると感じたけれど、そのぶん浦沢直樹漫画との相性が直に響く作品にはなっているとも思う。要するに、わたしはあまり折合いが良くない、ってことなのだけれども。

わかっていたことながら、浦沢節の説教くささが際立つ。単純にお気持ち表明パートの台詞量が多いし、やけに湿っぽくしたがって、毎回毎回お通夜みたいなのだ。
単行本で読んでいる分にはこちらである程度スピード感・ペース配分も調節できるところ、アニメという媒体だと難しいのもある。これで60分×8話(通常アニメでいう1.5シーズンぶん)はなかなか厳しい戦いだった。

そんなシリアス「感」、重厚「ぽさ」を出す割に、世界観の基準がよくわからない。たとえば、ペルシア王国とかトラキア合衆国、みたいな「いかにも」で「わるもの」な国名は架空(マクドナルドをワクドナルドにするレベルだが)なのに、トルコ・ギリシャ・日本…みたいな国は実名で出てきたり、とか。

気にしなきゃいいだけの話かもしれないがわたしにとってはノイズで、言葉を選ばずに言えば幼稚に思ってしまう。とはいえ、このへんは『20世紀少年』等でもお馴染みの感覚。
わたしは、(これは皮肉でも何でもなく心から)浦沢さんとは《童心》のノートで大人らしく美しい漫画を描ける人なのだと思っている。どこか楳図かずお的でもあるだろうか。そういう意味で、『鉄腕アトム』との相性は良かったのだろう。

なんだか斜に構えた文句ばっかりになったけれど、「憎しみは誰かが断ち切らねばならない」というストレートなメッセージを、恥ずかしげもなく全力でぶつけられるのはこの座組ならではだと素直に思うし、今このタイミングで届けられた14年越しのマッチング感も理解できる。

それに、天馬博士がドチャイケなのもポイントが高い。
彼は、元祖『鉄腕アトム』でも最も好きなキャラクター。『鉄腕アトム』の主要キャラって、アトムにしてもお茶の水博士にしても基本的に《いい子》中心な中、天馬博士は抜群に呪われし男だからだ。

今作の天馬博士は碇ゲンドウ入ってない?と思わせる天才拗らせブースト200万馬力おじさんとして登場し、良いところをだいたい持って行ってしまう。
この物語を経てもなお何一つ救われていない人物がいるとすれば彼で、劇中で何度となく出てくるキーワード《悲しみ》の化身なのだ。そしてもちろん、彼が生み出したアトムもまた本来的に《悲しみ》を背負っている。

今作からアトムに興味が湧いた!という方には、切なさ爆マシで胸に空洞が開くスピンオフ『アトム今昔物語』をおすすめしたい。というか、これアニメ化しておくれ。