200年に一度の彗星にまみえるように、人と人の出会いも思いがけず訪れ、瞬く間に過ぎていく。
たった一度の出会いが人生を変えてしまうこともある。
ユースティティアの山間部に建つ、シャヘル天文台。
写本課で働く少年、リオン・ステファノティスは人生のほとんどの時間をここで過ごしている。
まだ、恋は知らない。
天文台の大図書館には、悠久の時を経た書物が数多く眠っている。
日々劣化する古書を記録し後世に残す写本課は、仕事の補佐として大陸中から自動手記人形を
集めた。
タイプライターを片手に国を渡り歩く自動手記人形たち。
リオンは彼女たちを母と重ねて嫌厭していた。
家を出たまま戻らない文献収集家の父を探すため、幼い自分を置いて旅立った母。
リオンは母が自分よりも愛する男を選んだのだと思い、女にも恋にもコンプレックスを抱くように
なった。
だが、リオンは出会ってしまう。
今まで出会ったこともないような美しい少女、ヴァイオレット・エヴァーガーデンに―――
その瞬間、リオンの鼓動は今までにない音を鳴らし始めた。
リオンは幼い頃に親と別れ、この天文台へと預けられた。
ヴァイオレットもまた孤児で、親の顔も知らずに育ったという。
自分と似ているヴァイオレットを、ますます知りたいと思うリオン。
200年に一度訪れる、アリー彗星の夜。
リオンはヴァイオレットを天体観測に誘い、自分のことを話し始める。
母親に置いていかれてから、ずっとここに籠もり続けていること。
残された者の寂しさ。それでも、母親を大切に思っている気持ち。
それは、ヴァイオレットが自分でも気づいていなかったギルベルトへの感情と重なる。
「私は、あの方と離れて『寂しい』と感じていた」
ギルベルトを思うヴァイオレットの横顔を見て、リオンはヴァイオレットにとって彼が特別な存在
なのだと知る。
彗星の夜が明け、ヴァイオレットが天文台を発つ日。
リオンは長年籠もり続けていた天文台を出て、尊敬していた父と同じ文献収集家として歩み出そうと決意する。
自分の足で大陸中を旅して、まだ知らない多くのことを学ぼうと。
ヴァイオレットが生きている世界と、同じ空の下で。
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