Nella

おっさんずラブ-リターンズ-のNellaのネタバレレビュー・内容・結末

おっさんずラブ-リターンズ-(2024年製作のドラマ)
3.0

このレビューはネタバレを含みます



なるほどなぁ。

ゲイ当事者の方のブログを読んでいて非常に反省させられたのだが、前作の感想に以下のような事を書いてしまった。
・このドラマはLGBTの地位向上を目指す気は恐らく無い。
・胸キュンBLを月9ドラマの法則でやったらどうなるかの実験のようなものだと思われる。

ドラマの製作側も当事者以外の視聴者も、差別を是正するための現実的・具体的アクションは起こさないが、男性同士の恋愛は楽しみたい。まあそれをして腐女子(腐男子)というのでね…元々が「男が2人いると邪な妄想をしてしまう→思考回路が腐っている」という自虐から「腐女子」という呼称が生まれた訳ですが、やはりどこかに「そんなふうに表層を消費して、当事者に申し訳ない!!」という気持ちがあるから、普段はコソコソと溝鼠のように隠れているんですよ。それをテレ朝の全国放送で、堂々と「これで萌えていいよ」とお墨付きがつく状態は、良いような悪いような…と私も思っていました。

でもドラマのクオリティ自体は、演者さんのお芝居も含めてやっぱり高くて、何も考えずに楽しめてしまうんですよね。胸キュンBLは政治的にセンシティブな部分はすっ飛ばして、2人の男性の間にある幸せな空気をてっとりばやく楽しむためのコンテンツであり、そこの部分のクオリティは凄く高いの。
現実には同性婚はできないのにBLでは「結婚」が対外的なカップル証明として、わりとカジュアルに扱われたり、同性同士なのに「夫・妻」的な役割があったり、当事者の感覚とは乖離もある。元々は、主に異性愛者の女性が自己投影するためのコンテンツである事が大きいんだよね。BLには「ゲイ」って定義はほとんど出てこない。この作品でも、夫の男性への恋心を知った妻も、息子から男性との結婚を告げられた母親も、「あなた、ゲイだったんだね!」とは言わない。性差に因らない愛である事が視聴中の女性にとっては重要なので。
でも、ゲイの方にも個人差はあるだろうけど、牧とか武川さんとかはむしろ男性しか好きになれず、相手が「男性だから」好き、と言えるのではないか。武川さんが出てたリアリティ番組なんて完全にゲイ向けなんでしょ。そういう番組が世間から差別されず何となく存在するのがまた、BLのファンタジックな所なんだよね…。
でもこれだけ話題・人気になり、かつまた続編を全国放送するからには、「当事者も見ている」という視点は必要かもしれないと思う。その上で別に強火のアライになれって訳じゃないんだけども、やれることはやってかないとなー(投票とか)と思います。これはこの作品だけでなく、「何食べ」とかもそうならないといけないよな、と思います。

まあしかし2話の喧嘩のシーンは久しぶりに声出してめちゃくちゃ笑ったし、春田は可愛いし、井浦新さんも出てるし、結局全部楽しく見ちゃうと思います。私、個人的に大塚寧々さんは女優さんの中でダントツでタイプで、相変わらずクッソ美人で鬼可愛いし、マロにはもったいねえぜ!!とほぞを噛みながら見ています。


【6話まで・ちょっと追記】
これは商業BLの2巻だね。本命カップルがくっついた後のサブカップルやモブの話。本命はひたすらラブラブしてれば良いという…。先述したけれども、BLは元々異性愛者の女性が、自身の女性性への忌避から、安全に自己投影するための恋愛・性愛フィクションだった。今は当事者の人も読むようになったけど、発祥時は書き手も読者もほぼ女性だった。
これは自分自身についてですが、やはり、かなりいびつな自己投影だと思います。ゲイの人の表層を引っぺがして仮面にして被り、男性になれば、男性と恋愛してデートレイプされたりDVされたりしても、女性である時よりは悲惨な事にならない、という逃避なんですよね、それだけ抑圧が酷いのです。まあそれが言い訳になるかは分からない。抑圧ゆえの差別なら許されるという事もないと思いますし。

商業BLの2巻に詰め込まれるのは、結婚(法的なものではなく、男女の結婚になぞらえた上辺だけのもの)、お互いの老々介護や、嫁姑になぞらえた家族の問題、そういう「現実の女性が直面しがちな面倒な厄介事」が多いのも分かる。私としてはちょっと卑近過ぎて、あまり感情移入できないのだけど。
でもこの作品の中では(というか商業BLは往々にして)そういうわりかし深刻な問題も、全てファンタジックにボヤッと誤魔化して結局何も解決しない。例えばちずちゃんの元夫は世の中のクズを集めたようなクズだけど義両親は素敵、そんな事ってある?そんな素敵な両親からそんなクズが生まれ育つのおかしいでしょ。男児を甘やかし家長候補として何かと優先する、日本の男尊女卑がその背景にはあるはずなのに、そういう「政治的」なことには一切触れない。ちずは明るく元気だから乗り越えられるぜって、性格や気持の問題じゃないと思うんだけど。
まあBLってそういうものなんだけどね…本質と向き合うことはあまりなく、抑圧状態の酷い女性が現実逃避するためのもの。

なので、この話どこへ向かってるのかな?と思いながら見ている節はある。ほんとにただの2巻だったら今TVでやる意味とは…

【最終回・さらに追記】
見事に商業BLの2巻、しかも全年齢向けだった。ちなみに全年齢向けじゃない方の2巻だと、ほぼ例外なくセックスの探究の話になっていくんだよね。
「何食べ」とかもそうだけどゲイの「性生活」を一切描かない事で、一般社会に「まぁ心だけなら同性同士もアリかな」と認めさせる、というのは上手いやり方であると同時に、「この話、別に同性同士じゃなくても良くない?」みたく突っ込まれる所もあると思う。それなら性行為のやり方に悩んだり模索したりする、ガッツリ成人向け2巻の方がよりBLぽくはあるよね…、これは私がBLのキャラを客体化して見ているせいだと思いますが。BLってわりと、くっつくまでがクライマックスなので、2巻になって突然初めて知るキャラの性格づけがあったりするんだが、そういうのを感じた。あと絶対、古の腐女子が監修してるよなと感じさせる台詞回しも多かった(菊様とかいずぽやとか、アダ名のつけ方がBLだなって)
散々腐してるけどこんなふうにゲイカップルが世間に受け入れられて、幸せに暮らせる国だったらいいなと私も思うよ。でも「そうなったらいいな」って思ってるだけじゃ変わらないよ。(春田が言ってた同性カップルが家族を作る選択肢として「養子」も、BLにはよくお気軽に出てくる。でも今の日本では子供の養子は、血縁者の子でもない限り婚姻関係の夫婦、つまり男女の夫婦じゃないと貰えないのよ)

ラストの後、2人がアクティビストになってデモやゲイプライドに参加するようになったとしても、全然不思議じゃないと私は思うけど、そういうのは駄目なんでしょ…。2人の世界は応援するけど政治活動は応援しない、って切り離せる人だけが楽しめる作りになっているのはやっぱりちょっと問題だと思う。
井浦新さん(当時はARATA君)は「ピンポン」以来に見たので凄い役者さんに化けててビックリしました。この人はほんとに凄い。
Nella

Nella