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ONE PIECEのHALのレビュー・感想・評価

ONE PIECE(2023年製作のドラマ)
4.6
久しぶりに一気見するくらいは面白かった。荒唐無稽な少年漫画の実写化として(『カウボーイ・ビバップ』の反省も踏まえてか)、製作陣がめちゃくちゃ気合いを入れて強度を作ってきたところとそうでないところの差が激しく、これは限りある予算と尺を使ってドラマを作るという点で非常にクレバーだと思った。3点くらい良かったところを挙げると(そしてこの点だけでストレスなく観れてしまうから作品の勝ち)、まず役者が本当にルフィに見えること。原作者尾田栄一郎が「君以外には想像できない」と言ったらしいけどイニャキ・ゴドイくんの素晴らしさは筆舌に尽くし難い。このキャスティングだけでもう奇跡的だと思った。

そしてもう一つは原作エピソードの改変、ショートカット、取捨選択が巧みでかつ躊躇っていないなと思えること。例えば首領クリークなんて一瞬しか出ないんだけどそれを幻のミホークvsクリーク海賊団として実写化してくれるとかはもう"理解ってる"としか言えない。砲弾飛び交う戦場で文字通り一騎当千してる鷹の目のミホークのビジュアルはなんだか『鋼の錬金術師』の戦場シーンみたいで、「国家の犬」ってこういうことだよなと思った(ミホークがやってることは全然「犬」じゃないけど)。そしてこれがめちゃくちゃデカいのだが、セクハラ・下ネタが異常に多いという原作の問題点をかなり明確に覆してきたところ。特に原作の女性キャラへの男性キャラの言動は見ていられないところがあり、冒頭のアルビダといった小さなアレンジからサンジの「女好き」キャラクターがかなり抑えられるといった大きなところまでその意識が浸透しており、これは本当に嬉しかった。尾田栄一郎がかなり強く関わっていると聞いているけど、この点に関しては彼も20年前に描いていた描写に関して思うところがあったんじゃないだろうか。

以上の3点でもうずっと楽しく観れたんだけど、このキャストや製作陣の「こんな麦わらの一味を描きたい」という想いが伝わったのがゾロの看病シーンだった。アップテンポで進む原作に対してドラマでは波を作らねばならず、クリークがほぼ出ないというかなり大きな改変をした上でミホークとゾロの対決に「仲間を失うこと」「仲間の夢を止めないこと」「それが船長の判断として船員から異議が唱えられること」と言った麦わらの一味内部のドラマとして動かすという脚本は素晴らしかった。ミホークの役者が常軌を逸した再現クオリティだったんだけど(バギーと並んでMVPだと思う)、ここでかなりそのフィクション性が高い存在に打ちのめされる麦わら海賊団というのも強烈だったし、眠り続けるゾロを仲間たちが交互に気遣い、声をかけ続けるというのはかつてなかった「ケアする麦わら海賊団」という解釈を提示していて本当に良かった。

まぁ、アクションは全体的に怠かったり個人的にはウソップ編のキャプテン・クロが好きなキャラだっただけにあの辺りの話の鈍重さ、アクションの映えなさは辛いものがあった。あと一つ、どうしても言いたいのはあまりにもコビー&ヘルメッポが素晴らしかったこと。本当にあの二人が好き。あれも長大な原作があるからこそ、そこからのレファレンスによってキャラクター解釈に深みが出ている場面だし、クィアな当事者が演じているコビーは今回の作品で最上級の演技を披露していたと思う。そしてそれに対して光るのがガープ&ゼフという屈強な老人キャラクターで、この二人がワインを酌み交わすシーンがあるとは全く思っていなかったので笑ってしまったんだけど、この二人は一歩間違えれば非常にトキシックな、「暴力的な父」になりかねないのだが、育てた"息子"を支配することをやめたゼフとまだ執着しなくてはならなかったガープという対比はかなり強烈な原作への眼差しを提示していたと思う。それでいてガープによるコビーの訓練がどこか間が抜けていて、孫や息子を失った老兵ガープをコビーがケアするようにすら見えるのはすごいなと思った。今回はキャストと脚本(とあと美術!)が本当に良かった。はやく続き作ってくれ!!
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