タケオ

セックス・ピストルズのタケオのレビュー・感想・評価

セックス・ピストルズ(2022年製作のドラマ)
3.8
-「本物」になれない焦燥感 『セックス・ピストルズ』(22年)-

 「まだ何者にもなれていないが、お前らみたいな腐った大人にはなりたくない!」という思春期ならではの捻れた精神性は極めて真っ当なものであり、「セックス・ピストルズ」は、そんな怒れる若者たちの心をガッシリと掴むバンドだった。御多分にもれず、筆者も学生時代に彼らのアティチュードに心酔した人間のひとりである。
 多くの場合、「セックス・ピストルズ」の活動はジョニー・ロットンやシド・ヴィシャスを中心に語られがちだが、ギタリスト、スティーヴ・ジョーンズの回想録『Lonely Boy: Tales from a Sex Pistol』(16年)が原作ということもあり、本シリーズではスティーヴ・ジョーンズの視点から「セックス・ピストルズ」の狂乱の青春が描かれていく。その結果本シリーズは、「決して'本物'にはなれない」という普遍的な焦燥感を浮かび上がらせることに成功した。「こんな腐りきった世界なんか糞喰らえだ!」という怒りは確かにあるし、パンクな生き方を心の底から望んではいる。しかし、だからといってジョニー・ロットンやシド・ヴィシャスのような「本物」にはなることができない。そんなスティーヴ・ジョーンズの苦悩と葛藤を真摯に描いた本シリーズは、「セックス・ピストルズ」のアティチュードに心酔しながらも、いつしかこの腐りきった世界に妥協してしまった僕のような「本物になれないポーザー」には痛いほど突き刺さった。
 ダニー・ボイル監督のチャカチャカとしたデタラメな編集は、前作『イエスタデイ』(19年)では「ビートルズ」という題材との食い合わせの悪さが目立ったが、本シリーズでは見事にハマっているように思える。というのも、「セックス・ピストルズ」ほどデタラメなバンドもそうそういないからだ。しかし、デタラメなりにもそこには確かに「怒り」があった。「小難しいことはよくわかんねぇけど、とにかく俺たちはこの腐りきった世界にムカついてんだ!」という純粋なる「怒り」が。何もかもが最低最悪な「No future」な時代が続く限り、これからも「セックス・ピストルズ」は怒れる(本物になれない)若者たちから支持され続けるに違いない。
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