愛の田中圭特化型レビュー

OZU ~小津安二郎が描いた物語~の愛の田中圭特化型レビューのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

WOWOWにて第1話、出来ごころを視聴。

またまた、今までどこにも居なかった田中圭さんを見せていただきました。

トップ画像のクシャっとした笑顔がたまらなく愛おしいですよね。

ダメ父ちゃんだけど憎めないこの感じ。

なけなしのお金をかき集めて向かった先がパチンコ屋、しかも保険に入ってないっていうのが、もうダメダメ。

でも、そんな喜八がとことん追い詰められたり、取り返しのつかない悲壮な展開になりすぎない温かくほっこりした空気感がとても良かったです。

お金に関しては、弟・長田くんが、(早めに)現れて、富夫の治療費を肩代わりしてくれる。お金をたてに、無理やり子供を奪って行く感じじゃないのも良かったよね。夫婦共に愛情深く誠実そうだったし。

2人が、別々のところで見ていた同じ風船。
手を離れて、届かないところに行ってしまう、失われてしまうものの象徴。
それが、別々の場所で2人の心をそれぞれ同時に動かすスイッチになる演出が、めちゃくちゃエモいです。

何よりも、
賢くて、父ちゃんよりも大人な富夫が、
父ちゃんを大好きなのが、このドラマの肝だと思っています。

飲んだくれても、女に夢中になっても、喜八が富夫に向ける目、話しかける口調は、いつも温かく優しい。明るい愛情が溢れている。
どんな説明よりも、2人の何気ない口調や交わし合う表情に、積み重ねた愛が溢れていました。

原作にもあった、喜八と富夫の顔のはたきあいと、顔ムニムニ。時代のせいなのか、演出なのか、田中圭さんのさじ加減なのか、かなりマイルドで愛情に溢れた優しいタッチになっていました。

〜〜キャストのみなさんについて〜〜

おなじみのみなさんがいっぱいいらして
きっと楽しい、やりやすい現場だったんだろうな、と想像できます。

おとめさんの、優しいジャンケン良かったなぁ。
施しじゃなく、押し付けでもなく、富坊に何を出すかバレてるテイのおまけのコロッケが、さりげない愛でした。

長田くんと、行平さん、きっといいお父さん、お母さんになってくれそうでした。

春江さん、可愛かった。
なのに最初に登場した時、ホントは何か悪だくみがあるんじゃないかと心がザワザワしてしまったのは、シロクロパンダのあずさちゃんだったからでしょうか。笑

田中圭さんの喜八さん、顔がワクワクしてるんです。笑顔がキラキラしてるんです。
くたびれた父ちゃんなのに、少年っぽさに溢れていて、その純真さが憎めなさに繋がっているんだと思います。

こんなに薄黒く塗りたくられ、頑張ったチョビ髭まで生やしても、見た目はダメ父ちゃんなのに、どこか漏れ出る可愛い愛され力。

生えないヒゲの発育まで応援したくなる、放っておけない喜八さんでした。

次郎役、渡邊圭祐さんのキャスティングもとっても良かったですね。

シュッとしてカッコよくて、
ハルちゃんが、次郎さんに心を寄せたわけも、ただの一目惚れじゃなく。
明かされた理由がとても素敵だった。
稀に演技力を超えて発生してしまう「田中圭の方がええやん案件」も発生せず。でした。笑

キャラメル食べたくなってきた


ノスタルジックで、滑稽さの中にあたたかみが溢れていて、何度でも味わいたい作品でした。

本当は東京国際映画祭の大スクリーンで見たかったのですが、家でひとりで思う存分泣けるのも良かったです。


舞台挨拶や、作品紹介、雑誌インタビューなどで気になっていた最後の長回し

走り方が、ヒィヒィヘロヘロな必死な父ちゃん感が、走るカッコいい田中圭と全然ちがう!
ぐちゃぐちゃでみっともない父ちゃんと富夫との再会シーンも

もう!もう!もう!
言葉にならないほど良かった!
泣いて泣いて泣き腫らしました。

最後のシーン、初回は、ただただ泣きながら見ましたが。
富坊を抱きかかえ、ほとばしる感情のままに、ぐるぐると回る喜八さん。

...と見せかけて、富坊、喜八の表情をくまなく観せる。
長回しの意図を受けたカメラアングルを計算し尽くしての演技なんだろうな、としみじみ見返しています。


圭くんの謎の江戸っ子口調。
ブラックポストマンか!と思ったのですが、
この喜八でもあったんだなぁ。



〜〜小津安二郎監督バージョンの出来ごころとの比較〜〜

今回の出来ごころをまっさらの気持ちで見たいと思い、小津監督版の出来ごころはあえて観ないでいました。


白黒の活弁映画。
今まで、見たことがなかった活弁、独特な口調ですが、だんだん慣れてきました。

城定監督作の喜八の妄想シーンは、この原作へのオマージュだったんですね。

原作の喜八さんも、憎めないおじさんですね。

確かに、この喜八さんのビジュアルから、田中圭さんにオファーしようとは思わないですよね。笑

東京国際映画祭の登壇で、城定秀夫監督がお話しされていたキャスティングエピソードで、
喜八候補の中に田中圭さんの名前があったけど喜八ではないと思っていた。(おそらく城定監督の中で、圭くんは喜八としてはカッコ良すぎて選択肢に無かった)
でも、深夜に見た死神さんで、田中圭さんはこんな変な役もできるんだと思って田中圭さんで行きたいと思ったというようなお話をされていました。(おおよその意訳)

その前に城定秀夫監督×田中圭さんのタッグで撮られた作品「女子高生に殺されたい」は、田中圭さんの『変態性を凌駕する耽美な美しさ』ありきのストーリーでしたもんね。
まずは狙った女子高生を百発百中で惚れさせなければ成立しない完全犯罪。
新人教師が登場した瞬間に、生徒がざわつかなければいけないほどのカッコ良さ。
そこからの喜八、高低差がすごいです!

じょしころの時も思ったのですが、じっくり原作と見比べるほどに、

原作の活かし方と、新しい作品の舞台と尺に合わせた変え方の城定監督のバランス感覚が素晴らしい。

このリスペクト具合が生かされてるなぁ

変わったことがここで生きてきたか!と

小津版を観て、城定版を見るとさらに深まる味わいがありました。

小津版を見た後の城定版で、富坊が叩いた手を広げて見せたシーン、あそこも改めてまた涙腺崩壊。

無理に過去の時代設定にこだわらず、現代のセットでありながら、どこかノスタルジックさを感じさせる仕上がり。
今なんだけど、今でもどこかの片田舎にこんな風情が残っていそうと思わせる、さじ加減が絶妙です。