岡本太郎の生誕100周年に当たる2011年にNHKで放送された全4回の岡本太郎の生涯を描いたドラマ。岡本太郎が日本万国博覧会のテーマ展示のプロデューサーに就任し「太陽の塔」を作る1970年のドラマと、太郎の生い立ちを描くドラマが、織りなされて進行し飽きない展開。
私は、これまで岡本太郎自身の言行は、展覧会を見たり、ドキュメンタリーの動画などにより触れる機会があったので、本作で太郎に関して描かれる部分は、よくまとめられているという印象だが、特に新鮮な部分はなかった。本作の魅力は、もう一人の主人公といってよい二人の女性で、前半は母である岡本かの子(演、寺島しのぶ)、後半は秘書で養女である岡本敏子(演、常盤貴子)。寺島と常盤は、二人とも好演であるため、これがかの子と敏子の実像を反映していると受け取ってしまうが、気を付けたいのは、かの子は第三者の視点から描かれているのに対し(かの子の本心はわからない)、敏子は、常盤が語りも兼ねているので敏子本人の考え方もドラマで表現されている点。なお、太郎の二人の女性に対する心情はというと、客観的な視点のみであるので、本ドラマ上では不明瞭となっている。
本作を視聴後、岡本かの子の心情が知りたかったので、かの子の作品「母子叙情」を青空文庫で読んだ(短編なので数時間で読了)。この作品では「かの子」は「かの女」、「太郎」は「一郎」となっているが、かの子と太郎の母子をモデルとしていることは明らか。かの子の心情は繊細に描かれており、母らしい太郎への深い愛情、極めて理知的な他人への評価、自省的な行動など、かの子が人間として卓越した人物であったことがわかる。これまで「Taroの塔」をはじめとする作品やドキュメンタリーなどで描かれてきた岡本かの子像は、自分の芸術・愛のために破滅的な人生を生き早逝したというものであっただけに、かの子本人の作品との乖離は驚きである。また、「Taroの塔」では太郎がかの子を一度も母親として見たことはないとし、母親に対しての愛情は描かれていなかったが、「母子叙情」を読むと、太郎からかの子への愛情は明らかで(「パリの息子から寄越した手紙は百通以上にもなる」)、パリの駅での別れの場面(永遠の別れとなってしまうのだが)などは、胸を打つものがある。「Taroの塔」で岡本かの子に興味を持った人には「母子叙情」を一読されることを勧めたい。