ShinMakita

刑事追う!のShinMakitaのレビュー・感想・評価

刑事追う!(1996年製作のドラマ)
4.8
日本の刑事ドラマは、「集団もの」「個人もの」「バディもの」に大別できると思っております。それぞれ、誰もが知っている国民的タイトルがありまして、「集団もの」なら〈太陽にほえろ!〉、「個人」なら〈古畑任三郎〉、「バディ」なら〈相棒〉、〈あぶない刑事〉という具合。また「バディもの」の変法として、所属の違う2人が描かれるものもありまして、その代表格が〈踊る大捜査線〉ですね。

この〈踊る大捜査線〉放映の一年前に、同じく所属の違う2人の刑事のドラマが放送されていました。「バディもの」の変法というよりは「個人もの」の変法と言うべきでしょうか。捜査共助課の沢木賢太郎警部補と捜査一課の馬島直治警部補というフレッシュさのかけらもない中年2人が登場する作品。毎回ビターな味わいで、東映のレジェンド級監督の演出のもと、役所広司と布施博が静かに、かつ熱い演技を見せてくれた傑作でした。非長寿刑事ドラマの中では個人的ベストと思う作品。それが『刑事追う!』です。

ソフト化はされておらず、CSでしか視聴できないコンテンツですが、激推しします。中でも神回と言われる以下4エピソードは、必見!





第4話「陰画」
歌舞伎町の雑居ビル跡地で男性の撲殺死体が見つかった。呑みの帰りで第1発見者となった沢木は、本部となった新宿西署に顔を出し事件の概要を探る。ガイシャは末永という恐喝屋。強請られていた人間がホシだろうか。西署の刑事たちに疎まれ、馬島に注意されても単独で調べ始めてしまう沢木。やがて沢木は、現場近くにいたジャンキーの目撃証言から、末永と最後に会っていた男・戸村の存在を突き止める。だが精密機械会社の真面目なサラリーマンである戸村は、末永という人物は知らないと供述し、末永との接点も強請られるネタもない。目撃証言の間違いかと考えた沢木だったが…

…ゲストは森次晃嗣。長女と妻を亡くし、次女の結婚を控えた男・戸村。彼はなぜ恐喝屋を殺したのか。その動機の悲惨さに号泣必至のエピソードです。ただひたすらに、やりきれない結末。沢木の鉄拳だけでは納得いきません…

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第6話「籠城」
目黒区のラーメン屋「福力」の向かいで籠城事案が発生した。配達の失敗を店主に叱責された福力のバイト青年が、包丁を手に店を飛び出し、通行人を人質に空き家に飛び込んだのだ。現場に呼び出された沢木は、犯人を説得できる友人知人を探してきてくれと担当刑事に依頼される。真面目だが、要領の悪さから職場を次々クビになっていたという青年の過去。聴き込む先々で、青年が名前を変え、新しい気持ちで必死に生きていたことを知る沢木。青年に同情すら覚え始めた沢木だったが、他の刑事たちは青年が偽名を使っているのは何か重大犯罪を犯して逃げている身なのではと疑い説得を断念。しかも人質が政財界トップの娘であることから解決を急ぎ、突入を決断してしまう。

ゲストは下条アトム。バイト青年の唯一の理解者である町工場の旋盤職人です。クライマックスの説得シーンで号泣必至です。
どこまでも不器用でツイていない犯人と、クズのような人質。沢木の願いも虚しく、最悪の結末を迎えるエピソード。世間はどこまでも弱者に冷たく、救いがない。そういう事実を突きつける、本当に堪らない話でした。

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第10話「消された情報屋」
月島で沢木の情報屋・岩淵の射殺死体が発見された。5年前にも情報屋・藤江を伊能総業のヒットマン階堂に殺された苦い過去がある沢木は、岩淵の死に責任を感じ独り捜査を開始する。やがて岩淵が階堂を秘密裏に追っていたことが判り、解剖で岩淵の体内から階堂の拳銃の弾が見つかった。逃亡者となっていた階堂がまた舞い戻ってきたのか…

…沢木が、因縁のある殺し屋と対決する話…と思っていたら、非常に切ない真相が明らかになるエピソード。底辺の人間たちの悲哀も描いていて余韻も最高です。ゲストは古尾谷雅人、杉本彩でした。

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第20話「痣」
相沢が北関東刑務所を出所した。15年前強盗殺人を犯し、無期判決を受けていながら被害者の娘への手記を出して話題になった男だった。その被害者の娘…アイコと知り合った沢木は、アイコが相沢の弁護士・高山の訪問を受ける場に遭遇する。高山が言うには、相沢が是非ともアイコに直接会って詫びたいというのだ。相沢への強い憎しみを抱き続けるアイコは拒絶するが、高山は出版社とつるみ、名を上げる話題づくりのために何としてでも相沢とアイコを対面させる肚だった…

…犯人が出所したことでぶり返す、家族を殺された少女の痛み。そんな少女をいたわる沢木の優しさと哀しみ。そして少女の心に付け入る大人たちの醜悪さ…事件は全く起きず、刑事モノとしては異色のエピソードですが、こんなに胸を締め付けられる話があるでしょうか。この20話だけで、「刑事追う」は伝説のドラマへと昇華しました。
ゲストは赤塚真人、本田博太郎。原田美枝子の泣き演技にもグッときましたね…
ShinMakita

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