いの

チェルノブイリのいののレビュー・感想・評価

チェルノブイリ(2019年製作のドラマ)
5.0
「金属の味がする」


第1話から最終話まで観ている間ずっと、そして観終わったあとでも、口の中に金属が入っている感じが消えない。黒鉛の味がする。そして、放射線計の針がマックスに達しているかのようなジジジジジという音がずっと耳の中から消えない。消し去るな、なかったことにするな、このまま持ち続けろ、わたしはそう言われているのかもしれない。


観たいと思っていた。というより、観なくてはならないと思っていた。でもずっと先延ばししてきた。正直言って、観るのはとても気が重い。できれば避けて通りたい。でも2度目のU-NEXT。なぜか不意に、今なら観られそうな気がしてきた。そう思って観たけど、初っ端から無茶苦茶凄い。ずーっと針が振り切れるほど。エノラゲイからリトルボーイが1時間に1回投下されるかのような威力が続く。緊張の合間には ときどき柔らかい場面もある。例えば、第1話。ファミリーで事故の見物に行く人たちがいて、その姿は愛に満ちている。寄り添う彼らの頭上に、まるで粉雪のように美しく映える灰が降る。そのむごさ。


観る側にも相当な覚悟を強いるドラマだ。しかし、制作陣の覚悟の程が痛いくらいに伝わってくるから、観ている側も覚悟することができる。最後まで見届けようと。内容の凄さだけではない。きっとわたしが想像できないくらいに念入りな準備を行ってきたはずだ。キャストの 冷静でありながらも熱い入れ込みよう、構成の素晴らしさ、撮影等々、文句のつけようがない。


この事故は社会主義国特有の お粗末な設計や無知な担当者による実験が招いた結果だと、いったい誰が人ごとのように そんな風に言うことができようか。同調圧力や、権力者による隠蔽や積み重ねる嘘など、そんなのこの国だってたいして変わんない。3.11を経て、今はコロナウィルスによる大混乱の渦中にいるわたしたちは、そのことをよく知っている。



責任の所在はどこにあるのか。なぜ事故は起きたのか。それを追究するドラマでありながら、そのことは多分、柱が2本だったらそれはそのうちの1本で、もう1本の柱は、語弊があるかもしれないけれど、人間讃歌にあるのだと思う。


目の前に惨事が繰り広げられていれば、とっさに手を差し伸べずにはいられない人がいる。自己を省みず、目の前の人を救おうと懸命に働く人がいる。そこに損得や打算など、ない。消防士、医療関係者、鉱夫、科学者などなど、幾多の人々の尊厳を描いている。チェルノブイリの惨事を描きながら、人間の尊厳に帰着するという、超弩級のドラマである。圧巻。
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