チーズマン

チェルノブイリのチーズマンのレビュー・感想・評価

チェルノブイリ(2019年製作のドラマ)
4.8
チェルノブイリ原子力発電所事故を描いたドラマです。

ドラマシリーズとしては1話およそ1時間で全5話という割とコンパクトですが、ほとんどこれは5時間の骨太な映画と言ってもいいぐらいの密度だったと思いますね。

直接的な原因となったのは安全実験の強行、しかし原因の背景を辿ればあまりにも根が深く広く、ソ連という国の体制そのものとそれに適応した人間が起こした人災が完全に重なった一点であの事故が起こったのだということが描かれます。

この作品で描かれる様々な現場で自分ならどうしただろうか、きっと英雄になんてなれないと思いました。
おそらくは多くの人が、まさか今自分が英雄が必要な場面に立ち会っているわけがないと言い聞かせて何も行動を起こさないのではないでしょうか。自分もふくめ。
組織の駒の辛さが身に染みる作品です。

今でこそある程度総括されて俯瞰して見ることができますが、当時、ここまで大きな災害、しかも人類が経験したことのない核災害となると事故処理に当たる側からしたら何が正解で間違いかなんて結局はその都度の結果でしか分からないんですよね。
検討外れの事であっさりと人命が失われたり、しかしじゃあ完璧な対処法や解決法が初めから分かるわけもなくトライ&エラーを繰り返していくしかない、しかも刻一刻と時間との闘いに加え、常に目の前の対処法とそれに関わる人命の安全を天秤に掛けなければならない。

何千何百の人命に直接関わるような巨大な災害というなは、ほとんど戦争に近い状態を生み出してしまうのがよく分かりました。

その中で組織の都合や保身、かたや命の採算度返しで尽くす人、しかし正しさだけじゃ動かせない大きな物事の複雑さや苛立ちなど、なんというか人間の全ての部分が渦巻く様をチェルノブイリ原子力発電所事故を通して見事に描いていてこれは凄すぎるドラマだと思いました。

けして楽しい気持ちにさせるドラマではありませんが、色々と考えさせられ、問いかけられる、傑作ではないでしょうか。
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