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MIU404のmoeのレビュー・感想・評価

MIU404(2020年製作のドラマ)
4.0
ザクザクとバサバサと、歯切れの良い科白の応酬が目まぐるしく繰り広げられる。緻密な構成や伏線回収の手捌きは言うまでもないが、とにかくこの会話劇が野木先生の脚本で私がいちばん好きなところだ。独特の造語。キャラクターの個性が滲み出る言葉選び。噛みしめたくなる一言。

私は映画もドラマもどちらも同じくらい観るけど、(特に国内の)ドラマの長所というのは私たちの日常生活に寄り添い、世相を反映し、個人の小さな私生活に対して身近な言葉をくれるところだ。

野木先生はきっと常に世の中の動きに気を配り、アンテナを張り巡らし、彼女の作品に共通して登場するこの世の「不条理」と言うテーマを丁寧に掬いあげている。その証拠に、意図せず偶然、現実世界を投影してしまうという現象が度々起きている。どこまでも冷静な客観視を、脚本から感じる。心地良いテンポの科白は、その心地良いテンポのままで時々辛辣に世の不条理を斬る。

星野源や綾野剛や米津玄師に惹かれて観始めたのかもしれない視聴者全員が、終わる頃には全員を役名でしか呼ばない。主題歌は、もう歌ではなく作品そのものの中に組み込まれて登場人物たちの科白にならない叫びを投影している。

そしてさらに彼らが私たちの現実にやってくる終盤の展開に、ますますこの作品が、このタイミングで、この状況下でドラマになったことの必然を感じる。
空想世界よりも馬鹿みたいな現実で、それでも限りなくこの嘘みたいな世界を描き切ってくれた作品が、最後にもう一度私たちの手元に舞い降りてくる。

久住が取り逃した蝶は私たちのもう一つの現実だ。
誰しもが当たり前に思い描いていた、当たり前の2020年。

冗談みたいな現実と、現実みたいな空想と、不可解な双方の境目はまさにこのドラマのテーマでもあった「スイッチ」のように次々と自在に姿を変える。
私たちが感電している間に目の前にもう一度戻ってきた国立競技場の前の2人は、果たして空想か現実か。
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