アンナチュラルの8の情報・感想・評価

エピソード08
遥かなる我が家
拍手:534回
あらすじ
雑居ビルで火災が発生し、UDIに10体もの焼死体が運ばれてくることに。遺体は黒く焼けこげていて、全員が身元不明の状態。ミコト(石原さとみ)、中堂(井浦新)らUDIメンバーは、ヘルプとして来た坂本(飯尾和樹)の手も借りながら次々と解剖を進めていくが、身元判明は困難を極める。 一方で、神倉(松重豊)は将棋の師匠として慕っているごみ屋敷の主人(ミッキー・カーチス)の元を訪ねていた。彼の妻は1年半前に亡くなりUDIで解剖されたが、今も死を受け入れられずにお骨の引き取りを拒否しているのだった...。 解剖の結果、ミコトは9番目の遺体が焼死する前に後頭部を殴られていた可能性があると指摘。腰にはロープで縛られていたような皮下出血も見つかり、単なる火災ではなく殺人を隠すための放火だったのか...?と疑念を抱く。 また火災現場で唯一助かった男がいることも判明。その男が入院していたのは、六郎(窪田正孝)の父・俊哉(伊武雅刀)が勤める病院だった。俊哉はUDIを訪ねてきて、男の病状を伝えるとともに、息子を解雇してほしいと申し出る...!!
コメント206件
Shion

Shion

このコメントはネタバレを含みます

最終回、『アンナチュラル』の縦軸である“赤い金魚”事件へと繋がる最後の通常回となる。 この第8話単体で観ると感動回でもあり、ここまでのドラマを通しての六郎の成長と神倉のUDI設立に対する切実な願い、後の『ラストマイル』で結実する日本全国の歯科データベース化などの布石も張られ非常に重要な回である。が、『アンナチュラル』という“ドラマ単体の全体像”の中で観ると、感動回とはとてもじゃないが言い難いという非常に厄介な作りで、野木脚本の残酷さと、そのリアリティの描き方にヒリヒリさせられる。 このエピソードで取り上げられる不自然死は、“焼死体”。焼死体のご遺体の死因究明の難しさは、予備知識がまったくなくともなんとなく理解出来るのではないだろうか。ミステリーをよく読んだり観たりする視聴者であるなら、ご遺体を焼くことで死因を分かり難くするトリックを連想する人もいるだろう。実際、映像コンプライアンスの問題もあり今回ハッキリとは映っていないが、画面の端々に映る黒焦げのご遺体は、素人からすればパッと見ではその性別も年齢もわからない。言ってしまえば、火葬の途中のようなものだ。骨になってしまえば素人目には男女の別も年齢もない。少し乱暴な言い方ではあるが、焼死体とはその過程にあるご遺体なのだ。 ただし、法医学による解剖は、そんなご遺体の身元を次々と明かしていく。このエピソードは、“焼死体による身元隠蔽”、というようなミステリの常套句をやりたいわけではない。むしろ法医学により、そうしたご遺体の身元が判明するまでをスピーディーに描くことで、法医学の必要性を説いていく。そこに、神倉所長のUDI設立への想いや、これだけのスピード感で身元が判明することすら、実際の現場においては“遅すぎる”現実も描いているのだ。 このエピソードにおいて語られる、神倉所長の目指したUDIの国立機関化と、全国の歯科データの一括管理、データベース化。この時点では実現していなかったこの全国歯科データベースが、後の『ラストマイル』での事件の早期解決に繋がる脚本が流石だ。同じ焼死体のご遺体が、このエピソードの未来にあたる映画の時系列では、実現したデータベースによって素早くその身元が判明する。映画では今回のエピソードとは逆に、焼死体であることをトリックとする古典的ミステリを、法医学の立場で、UDIが暴くというところもこのシェアード・ユニバースの巧みさで、このエピソードで提示された問題へのアンサーでもある。 現実の世界ではまだまだ夢物語だが、そういった機関の必要性が主題であったドラマではそれを“問題”として描き、主題が別のところにあるスピンオフ映画では“理想の未来”としてその有用性を描く。 ドラマはドラマとして法医学をメインに描く物語に過剰なファンタジーは含めず、サーガの中での未来には理想を描くそのバランス感覚が素晴らしい。このデータベース化の結実には、ここから最終局面となる連続殺人事件“赤い金魚事件”の解決にUDIが深く関わったことも後押しになっているのだろうという、ユニバースでの連続性や物語上の必然性もきちんと存在している。 また、神倉所長がUDIの必要性を感じたのが東日本大地震という現実から続く物語で、いよいよ所長の内面も今回はきちんと描かれ、法医学の必要性を視聴者にとっても記憶に新しい震災と結びつけることで、より強く印象付けることにも成功している。 それこそ震災後の被災地には、焼死体も、水死体も、たくさんのご遺体があったことだろう。本当に、数えきれないほどの人が、“遥かなる我が家”に帰れなかったのではないだろうか。そんな事態を、ほんの数年前に我々は経験し、地震大国であるこの国では、またいつそれが起こるかもわからないのだ。 「ご遺体を帰るべき家に返してあげるのも法医学の仕事です」という神倉所長や、「帰してあげたいです」という六郎の切実な言葉に宿るリアルも、帰りを待つ遺族の気持ちも、視聴者はこの国に生きる以上知っておく必要があるだろう。 神倉所長は奥さんのご遺体を受け取らないゴミ屋敷のヤシキさんの家に、根気よく通い詰めてその引き取りを願う。くだらないことで喧嘩をして、それっきりになってしまった奥さんの死を認めず、自分へのバチだと語るヤシキさんに、「人はバチでは死なない」と説く。神倉所長にとって、UDIを国立機関に出来なかった後悔や、東日本大震災跡地での苦悩に対しての贖罪の気持ちもあるのではないだろうか。 このエピソードはまさに、これまで法医学の必要性を説いてきたドラマの最終局面であり、ご遺体に残る傷跡から、死因だけでなくそこで何があったのかを語らせる。死者が語ることの出来ない、死ぬまでの物語を、法医学の力で語らせる物語だ。 これは4話の佐野さんや、7話の横山にも通ずる物語で、死因の究明の中で、その人が生きていた最後の物語を遺すことが出来るのが法医学であるとも言える。だからこそ『アンナチュラル』は、“間に合わなかった”物語ではあるが、“死者の声を聞く”物語なのだ。 「ろくでもない息子を生き返らせることはできないけど、バチで死んだって思われたままじゃ、町田さん、帰っても肩身が狭いです」 六郎自身が、親からはろくでもない息子として扱われ、中学の受験期の頃から、父親との関係はどこか冷えていた。そうして六郎は、生者を生かす医者の道からは外れてしまい、自分自身が何を目指しているかも、何故医者になるかもわからないまま、屈折したモラトリアムを抱えて、スパイとしてUDIに入り込んでいたのだ。 そんな六郎が、神倉所長と「同じようなことを言う」とゴミ屋敷のヤシキさんに言われるまでになり、町田さんのご遺体を両親のもとへ帰す、その説得をすることが出来たのが、このエピソードにおいてのハイライトであり、ここまでの8話かけて成長してきた、主人公の一人であり視聴者の代弁者であった六郎の成長の物語の終着地点でもあるのだ。 六郎がいたからこそ、町田さんの想いは両親に伝わり、“ろくでもない息子”が本当の意味での善人であったことを両親に伝えることができた。六郎はこのエピソードを通して、自身のコンプレックスと父との関係にも決着をつけたのだ。 しかしこのエピソード、ドラマ全体の物語の中ではつくづく救われない、最悪に胸糞の悪い展開でもあり、それが野木脚本のリアルな冷徹さと巧みさでもある。 町田さんが命がけで救った、火災の唯一の生存者が“赤い金魚”事件の真犯人:高瀬であった事実。しかも、町田さんにとって高瀬は特別親しい間柄ではない。町田さんが家族と呼び、“遥かなる我が家”、帰れない実家の代わりに、家族として迎えてくれた人々は、皆救助が間に合わず町田さんと一緒に亡くなっている。高瀬は、たまたま一度か二度来ただけの一見であり、更に高瀬がそのビルに来るのは、人を殺した帰りであることも、この後の2話で明かされる。 火災の中、頭蓋骨に骨折まで負いながら、何人も何人も、呼吸もままならない中で意識のない人を運ぶのは相当な精神力と強い意志がなければ成し得ない。人を選り好みせず、目についた人から助けようとした、そんな町田さんの善意を台無しにするような脚本。しかし、それこそが残念ながらリアルなのだ、善意で助けた人が、善人であるとは限らない。 これは後に赤い金魚事件が終わってニュースになったときの、町田さんのご両親の気持ちを考えると本当に吐きそうになるが……そこを決して描かないのも野木亜紀子らしさと言えるだろう。 そして六郎もまた、この事件を通してやっと素直に父親と向き合った結果勘当同然の扱いをされてしまう。ラストで身元不明遺体の倉庫を歩く彼は、そこに自分を重ねていたのだろう。この身元不明の遺体の中には、2話での犠牲者であるミケちゃんがいまだに遺されているのも、物語の連続性とその哀しさがよく表れている。 エピソード序盤でミコトたちの語る、「私たち、どこに帰るんだろうね」という言葉も、実際に結婚や家族という考えが希薄になりつつあり、若者の未婚率が増加している現代日本において根深い問題だ。何もなくても、身元不明の無縁仏になることもある。「遥かなる我が家」というタイトル通りに、今回も様々な意味と社会問題が物語に含まれている。 この、すべてを丸く収めない残酷さも野木脚本らしさでもあり、そんな不条理が我々の見えていないところで、この社会の至るところに常にあることをしっかりと描いていくのが野木脚本の何よりの強みでもあるのだ。 しかしそれでもこのエピソードの唯一の救いは、ヤシキさんの奥さんのご遺体がヤシキさんの家にきちんと帰れたことだろう。そのキッカケを作ったのも六郎であり、それが父親と不仲になっていった、勉強に身が入らなくなった時期にやっていた将棋ゲームのお陰であるというのも、六郎の“現在”が決して間違っていないことを示すかのようで泣けてくる。 「おかえり」と言われて思わず泣きながら笑う六郎の表情は窪田正孝さんの演技が光る。野木氏もシナリオブックの後書きで「脚本を超えた」と大絶賛していたが、あの表情が出せる人はなかなかいないだろう。 結婚が破談になり、自分の居場所を見つけかねていたようなミコトが、UDIを「楽しいよ」と義母夏代に電話するシーンもまた良い。ミコトにとっては、UDIも三澄の家も、きちんと居場所になっている。電話越しの夏代の表情も薬師丸ひろ子さんの暖かな雰囲気がよく出ていて素晴らしいのだ。こんなに泣かされた後の二週連続の最終回で、六郎とUDIに亀裂が生じてしまうのもまた胸を抉る。 もうみんな仲良くこのままで良いじゃないか、六郎は週刊ジャーナルだって辞めたんだぞ!赤い金魚男、お前なんかいっそあのまま火事で……ちくしょうちくしょう、と視聴者しか知らない情報を振り回しながら地団駄を踏みたくなる。いや、実際に踏んだ。 ラストはいよいよ、UDIラボで解剖するご遺体に、赤い金魚の跡が見つかり、宍戸もいよいよ怪しい動きを見せていく。物語は終わりへと向けて走り出したのだ。
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だだ

だだ

マジ全話泣ける
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たけ

たけ

私たちはたまたま生きている
餓狼

餓狼

「帰ってくればよかったとに。毎年、待っちょったんにね。ね。」 たまには実家帰ろう(マダジッカグラシデシタ)
結局カレー

結局カレー

このコメントはネタバレを含みます

「相棒目指してるらしいですよ。」 「どっちが右京さん?」 「頼まれてクソ仕方なく、クソいやいや参りました。」 「私たちは、私たちの仕事をしよう。」 「ろくでもない息子を生き返らせることはできないけれど、でもバチで死んだと思われたままじゃ町田さん帰っても肩身が狭いです。」 「死ぬのにいい人も悪い人もない。たまたま命を落とすんです。そして、私たちはたまたま生きている。たまたま生きている私たちは、死を忌わしいものにしてはいけないんです。」
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ダイフクチャン

ダイフクチャン

このコメントはネタバレを含みます

「帰ってくればよかったとに。毎年、待っちょったんにね。ね。」 「私は消防士でした。ロープは私は教えました。覚えとったんやなあ。三郎。」
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にゃんにゃん

にゃんにゃん

死因がわかってからも気になることがあれば解明するまで突き止めていく姿勢が、名誉回復にまで繋がってるのがいいよね この回はホッとするしジーンとする
だいふくちゃん

だいふくちゃん

すごく良かった
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にゃぽぽ

にゃぽぽ

この話が一番好きだ
この話が1番好きです。
えり

えり

鑑賞日:2025年9月20日
光

UDIの事務所で、ピンクのカバの話初めてした時、中堂さんがハハッって笑ったのめちゃ良い。 このストーリー泣いたなぁ
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おでこ

おでこ

死んだらどこへ帰るか。 それぞれの家が本当の家だとしても、血縁としての家じゃなくとも、新しい家だとしても、どうか全員がちゃんと帰れてほしいと願わずにはいられない回。震災も災害も多くなる昨今、どうかみんなが安心できるそれぞれの家に帰れていてほしい。
kaa2899

kaa2899

泣いた
GEDATSU

GEDATSU

死ぬのに、良い人も悪い人もない。 たまたま命を落とすんです。 そして私たちは、たまたま生きている。 たまたま生きている私たちは… 死を、忌まわしいものにしてはいけないんです。 神倉保夫
しめさば

しめさば

このコメントはネタバレを含みます

六郎にとって居心地の良い環境が見つかってよかった。
からしめんたいこ

からしめんたいこ

このコメントはネタバレを含みます

雑居ビル焼死体10体 帝日大のくべ ⑨殴られて縛られて焼死 ⑪唯一の生存者 お父さんに教えてもらった 消防士が動けなくなった人を運ぶ縛り方 帰る場所があるって尊い 生きてるうちしか話せないんだよね 確かにすぎる 普通に泣いた
Vol2

Vol2

鵜飼教授だ❗❗
りゅか

りゅか

雑居ビルで火災発生🔥 碌でもない大人になってしまったかもしれないけれど、小さい頃に親から教えてもらってた事は忘れていなかった。 助かってほしかったな。
カオリ

カオリ

このコメントはネタバレを含みます

 不審死の巧みな謎もさることながら、様々な立場の人間によるそれぞれの「帰る」「還る」「返す」が錯綜した最も良い回だった。  元の居場所へ帰りたかったけれど帰れなかった人がいる。元の居場所に帰りたかったけれど帰れなくなり新たに帰る場所を見つけた人もいる。還りたい人を返すために尽力した人がいる。  「おかえり」「ただいま」ができる尊さと幸せ、またはそこに至らなかった人の悲しさや震災のことも思い出しながら見て泣いちゃった。  ネタバレマークをつけて再投稿しました。
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マホガニー

マホガニー

ベタだけど、言葉で繋ぐ脚本の魅せ方。
y

y

第8話 遥かなる我が家 雑居ビルで火災が発生し、UDIラボに10体もの焼死体が運ばれてくることに。遺体は黒く焼け焦げていて、全員が身元不明の状態。ミコト(石原さとみ)らUDIメンバーは次々と解剖を進めていくが、身元判明は困難を極める。そんな中、ミコトは9番目の遺体が焼死する前に後頭部を殴られていた可能性があることを発見。腰にはロープで縛られていたような皮下出血も見つかり、単なる火災ではなく殺人を隠すための放火だったのか?と疑念を抱く。また、火災現場で唯一助かった男がいることも判明。その男が入院していたのは、六郎(窪田正孝)の父・俊哉(伊武雅刀)が勤める病院だった。俊哉はUDIを訪ねてきて、男の病状を伝えるとともに、息子を解雇してほしいと申し出る。
ririri

ririri

このコメントはネタバレを含みます

泣泣泣 お父さんが遺体の前でブチ切れてんのも真実分かって泣いてんのも悲しかった😭 六郎と神倉さんの件も泣く 天下りじゃなかったんや笑
RINKA

RINKA

このコメントはネタバレを含みます

いろんな親子や家族のエピソード リアルタイムで見たときからよく覚えてる話 この話しんどい 命をかけて救えた唯一の人が連続殺人犯っていうのが本当にしんどい
mizuki

mizuki

このエピソードが特に好き 泣いちゃう
瀬賀喜太郎

瀬賀喜太郎

このコメントはネタバレを含みます

barや飲み屋での人間関係っていいよな。 過去やこれまでの家庭環境や社会的地位、収入等関係無くお酒が飲める仲間達。 心の拠り所は大事。
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c

c

親子ものに弱いことに気付かされた
hikarinokomama

hikarinokomama

帰る場所があるのは大事♪ 泣ける回でした!
サンライズ

サンライズ

人間関係のうち、親子の関係が一番難解ですね。
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mumu

mumu

このコメントはネタバレを含みます

ずっと泣いた。居場所、帰る場所があるって尊いものなんだなあ。 「死ぬのにいい人も悪い人もいない。たまたま命を落とす。私たちはたまたま生きてる。たまたま生きてる私たちが、死を忌まわしいものにしてはいけない」 被害者の三郎とお父さん、結び方覚えてたの泣けた。六郎親子とも関係性が重なって苦しかった。ヤシキさんのシーン全部よかった〜。将棋に勝ったら。 「生きてるうちしか話せないんだよね」の説得力が違う。