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RRRのkkmovoftdのレビュー・感想・評価

RRR(2022年製作の映画)
5.0
『バーフバリ』シリーズで世界を席巻したS.S.ラージャマウリ監督による新作。ムチャクチャにアツい映画だということは聞いていたが、見るタイミングを失したまま2023年を迎え、遅ればせながらようやく見ました。これがマジで、人生ベストの映画体験だったかもしれない。

『RRR』、それはRise・Roar・Revoltであり、wateRとfiReのstoRyであり、実際のところは企画段階で監督ラージャマウリと主演のラーム・チャラン、NTR・ジュニアの3人のRを取って呼んでいたのが「なかなか具合よろしいやんけ」ということでそのままタイトルになったみたいですね。
インド映画というと、ムンバイを中心に作られたヒンディー語映画を指して「ボリウッド」という言葉がよく使われますが、本作は南東側で話されるテルグ語をベースにした、いわゆる「トリウッド」映画ですね。

しかしこの『RRR』、これはもう近年稀に見る素晴らしいエンターテイメント大作でした!これまでの人生で何度映画館に通ったか分からないが、映画館で映画を観て、こんなに楽しかったことは今までなかった。マジで、エンターテイメント映画としては現時点で世界トップだと思う。しばらくこれ超えはないだろうなと思ってた『トップガン:マーヴェリック』を悠々超えてきたし、何なら我が人生のエンタメ部門ベスト映画『マッドマックス:怒りのデスロード』すらも超えてきた。「現代におけるメッセージ性」だとか「昨今の映画シーンにどう受け止められるか」みたいな穿った態度を全部かなぐり捨てて、剛腕直球ど真ん中で熱々の鉄球を打ち込んでくるような、そんな映画でした。いやぁ、映画っていいもんですねぇ!

『バーフバリ』が古代インドにおける王位継承争いの話であり、一人の男の生き様をこの上なく熱い展開で描きつつも、まぁ言ってみればどこか遠くの物語を読んでいるような感じだったのに対して、今回は演出・展開の熱さはそのまま、いや更にグレードアップした上で、これに加えて「イギリス植民地支配に立ち上がるインド国民の話」と現代にすごく近いので、物語の起伏がダイレクトに身に迫る!!敵役のイギリス人も同情の余地がないほど徹底的に悪く描かれており、いちアジア人として大英帝国への怒りを共にしたと思ったら、そのまま映画の内包するとてつもないエネルギーの奔流に飲み込まれて後はもうエンディングまで一瀉千里という感じ。

またあらすじこそフィクションであるものの、主人公のラーマ(ラーム・チャラン)とビーム(NTR・ジュニア)については実在の活動家二人をモデルにしており、またそれぞれが更にインド神話「ラーマーヤナ」と「マハーバーラタ」の主人公である神様になぞらえてあるという二段構造で、我らが独立戦争の英雄譚にヒンズー神話のトッピングとくれば、これはもうインド国民であればムチャクチャに血が滾る内容だったんだろうなぁ。エンディングでグジャラートやパンジャーブなど、独立戦争における各地の英雄らしき人々がピックアップされるのも熱い演出だった。

しかしインド国民でない我々も心配ご無用!熱すぎる展開に次ぐ展開の連続で、ほんとに3時間がアッと言う間に過ぎるんですよ!!
一つ一つのアクションシーンがそのままポスターにしたいくらいの映え映えの盛り盛りだし、インド映画らしい「いやそうはならんやろ」ってマンガみたいな演出も盛り沢山!!
「アニマル大戦争」のとことか、「手長足長戦法(あるいはフォレスト・ガンプとダン中尉戦法)」のとことか、「拾った手榴弾で即席グレネードランチャー」のとことか、ちょっと思い出しただけでも出てくる出てくる。唐突にめちゃくちゃデカい組体操タワーやりだしたのも意味わかんなかったし、エンディングの大団円ダンスで監督がシレッと混ざってるのも良かったなぁ。

しかもこれらが只のバカ演出じゃなくて、しっかり映画のカタルシスにハマってるんですよね。もう開始30秒から既にフルバーストな感じだったので、ほんとに映画観てる間中、目を丸くしてるかニヤニヤしてるかリズムに乗ってるか泣いてるような状態で、見終わったら2キロ痩せてました。ダイエットがうまくいかない人にもいいんじゃないかと思います。

個人的には『バーフバリ』では観ていて涙することはなかったが、今回は史実をベースに国のために立ち上がる人々を描いていることもあり、その崇高な生き様に目頭が熱くなるシーンがいくつもあった。
特に主人公の一人、ビームが拷問を受けるシーンが白眉で、極限の苦しみの果てに自らのバックグラウンドたる自然に立ち還る様、これを故郷の歌を歌うことで示す演出はほんとうに泣けた。(コムラムビ~ムド~ コムラムビ~ムド~♪)劇中の民衆と同じようにワナワナと震えて、観てるこっちまでインドのために立ち上がるぞ!!という気持ちになりました。マジで叫ぶかと思った。
思えば中学生の頃『ブレイブハート』という映画が好きだったが、あの映画でメル・ギブソンが拷問を受けるシーンに似てましたね。

また後半では主にもう一人の主人公、ラーマの過去が明らかになっていくのだが、ここも涙なしには観られないドラマチックな展開だった。空から観てる親父がエモいことエモいこと。
このビームとラーマ、それぞれのドラマを踏まえてのラストの共闘シーンでは、二人を称えるテーマソングもバチクソにハマって、ちょっと筆舌に尽くし難いアガりっぷり!!
まぁ最後の方では二人が覚醒してほとんど神様みたいになってたので、ちょっと「いやもうあんたら二人だけでえぇやん」感は否めなかったが、熱いことになりすぎてて笑えてくるというこの感覚も、ラージャマウリ作品ならではの特徴かも。

一方で柳下毅一郎が指摘するように、ほとんど神と同一化した英雄が朝敵を滅する、という一方的すぎる構図の危うさ、また彼ら主人公が擬せられるのがヒンズーの神様であるように、あまりにもヒンズー至上主義の構図に寄りすぎているという問題点は確かにあると思う。(何故エンディングにガンディーやネルーが出てこないのか?)
また『バーフバリ』より女性の地位が低くなっている、というのも正しい指摘だと思うが、これは脚本の難をキャスティングでカバーしようとしたところもあるみたいで、このラーマの奥さんシータ役(これも「ラーマーヤナ」の女神と同じ名前)のアーリアー・バットさんはもともとヒンディー語圏の、それこそボリウッドの女優さんらしいんですけど、昔から男性に負けず前に前に出る女優さんとしてアイコニックな存在だったらしくて、ストーリーとして女性の立場がやや弱かったんで、そういうキャスティングでフォローしようとしたみたいですね。やはり映画は知れば知るほど面白い、とは町山智浩の言であったか。

※以上の指摘はYouTube BLACK HOLEチャンネル「『RRR』と激乱インド映画大特集」より https://youtu.be/QrrbK4JcZr0


しかし上記の課題点を差し引いても、当代に比類のない途轍もないエンターテイメント作品であることには間違いないと思う。これを最高の環境で観ることができて、ほんとうに良かった。
これからもし人に「何かおすすめの映画ある?」と聞かれたら、向後私は本作を挙げると思います。

「よぅ兄弟!!サルサでもフラメンコでもない、『ナートゥ』を知ってるかい?」
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