知

百花の知のレビュー・感想・評価

百花(2022年製作の映画)
3.7
記憶が全て正確であるとは言えない。生きているうちに薄れてしまう記憶、塗り替えられてしまう記憶がある。私のこれまでの記憶はどうなのだろうと、家族と話したい気持ちになった。

小説では人間の歌手だが、映画ではAIを搭載したバーチャル歌手KOEが登場。
この映画では、誰にでも訪れ得る事柄や、日常感を表す描写が多い中で、異世界感のあるKOEが登場する事に最初違和感を感じていた。
KOEは人間と同じく学び、記憶することができる。しかし、人間と違って忘れることができない。
この「忘れる」という事がどれだけ人間味のあることなのか、そしてこの映画でとても重要なことなのか、それ表すためにはKOEが必要なのだと思った。

タイトル「百花」。
対比されたように置かれている1輪の黄色い花。類似性が感じられるたくさんの花火。この映画には「花」が象徴的なものとして取り上げられている気がした。
試写後の監督のお話によると、タイトル「百花」の意味は「人間に残る最終的な美しい記憶」だそう。花は記憶のメタファー。花が咲たくさんくように、記憶もどんどん増えていく。しかし、花が枯れるように、記憶もどんどん薄れ鮮明ではなくなってしまう。そして残る鮮明な記憶は100くらいだと、監督は仰っていた。(はず。)

衣装の色や濃淡にも注目して観て欲しい。
あとは、冷蔵庫から大量に出てくる卵、つがいの金魚、回想される過去の記憶の映像など。散りばめられている伏線というか、ヒントというか、考察ポイントというか。カメラワークがゆっくりで繊細な時には、何かしら隠されていたのだと思う。
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