バランシーン

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのバランシーンのレビュー・感想・評価

3.7
結構壮大なオマージュとメタファーの洪水。悪く言っちゃえば、引用のパッチワークなんだけど、ラストは謎の感動が全身を駆け抜けるという何とも不思議な作品でした。

これ、乱暴に言っちゃえば、家族の再生、もしくは「親離れ・子離れ」っていうどこにでもある極めてミニマムな話を、マルチバースなんていうイカつい味付けでモンスター化させた作品で、んなもんでジャンプだの、アルファ・バースだの、ジョブ・トゥパキだのは単なるガジェットに過ぎないんですよね。わかりやすくマトリックスだったり、ジャッキー・チェンだったり(キー・ホイ・クァンもどことなくジャッキーっぽい)、2001年だったり、ウォン・カーウァイだったり、ガジェットだからいくらでも好き勝手引用できる。

じゃあなんでラストにそんな謎の感動が押し寄せたのか?そんなハリボテの寄木細工のストーリーで?っていうと、中盤以降徐々に形成される「無限にあり得た可能性」と「たった一つの選ばれた今、ここ」の対比が見事だったからだと思うんですよ。これ、実は最新のテーゼと見せかけて、90年代に小劇場なんかでも流行ってた(当時はマルチバースじゃなくてリーンカーネーション・笑)、結構馴染みのテーゼなんですよね。だから、いくつもの可能性が結局は今、ここに収斂しちゃうことや、輝かしいかもしれないいくつもの可能性を蹴って、かけがえのない今、や「あなた」を選ぶっていうのは、実は僕の年代にとっては古典としてグッとくるオチで。

他にもADHDやLGBTの側面なんかからも色々語れるみたいですが、ミニマムなお話にスゴい衣をつけてるだけで、肝はマルチバースではなくリーンカーネーションと思えば、そんなに構えなくても大丈夫かな、と。
まあ、アカデミーを何部門も獲っちゃう作品かと言われると、?とはなりますけどね(笑)
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