バランシーン

十二人の怒れる男のバランシーンのレビュー・感想・評価

十二人の怒れる男(1957年製作の映画)
4.6
本当に久しぶりに観ましたが、変わらず傑作ですね。
人間の可能性、民主主義の可能性について、大上段に構えることなく伝えてくれる。人は分かり合えるかもしれないという希望を与えてくれる作品。

とにかく脚本が素晴らしい。ついに最後まで登場人物は番号でしか呼ばれないのですが(ラストで8番と9番の本名だけわかる)、物語の進展につれて自然に各々の出身や背景、心情や性格までしっかり伝わり、綺麗事だけでなく、差別主義者も教条主義者も日和見主義者も自己中も余すことなく出てくる。しかし、これらネガティブな特性も「あってはならないもの」として排除されるのではなく、これらを抱えながらも、しかし人は分かり合い、尊重し合えるかもしれないというメッセージに昇華されていく。
この点が本作の背骨にあたる価値であり、これがあるから70年余りを経ても人を感動させることができるのだな、と。

俳優陣も素晴らしい。もちろんヘンリー・フォンダはカッコいいんだけど、陪審員12人全員にそれぞれ見せ場があり、物語があり、それに全力で全員が応える演技になっている。ほぼ全編むさ苦しい密室で展開する座組も、緊張感の持続と出口に辿り着く高揚感の高まりに一役買ってます。

人間は決して高尚ではないが、決してそこまで卑下するようなものでもない。人は変わることができ、分かり合うことができるかもしれない。民主主義は完全ではないが、信じるに値するモデルなのだ、と。
再度言いますが、95分間に込められた作り手の想いは時を経ても響きますね。
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