ざわわ

すずめの戸締まりのざわわのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.5
「震災」というセンシティブで難しいテーマが、若者から大人まで“楽しめる”ように昇華されていて「面白かった」と言える作品になってるのがすごい。

地震は、日本の自然と切っても切れない関係にある。歴史的な言い伝えや信仰をアレンジしてストーリーの中心に据えることで、人の力の及ばない「自然の力」の荘厳さや残酷さのようなものが表現されている。日本に古来からある自然への信仰や神様への畏れが、自然にストーリーに馴染んでいるのが見事だった。

日本中の景色が、新海誠の得意な光と水の表現を駆使して本当に美しく描かれている。木々の揺れる森、太陽を反射する坂道のアスファルト、光をたくわえる水飛沫。私たちの生活のどこにでもある景色が、目を細めたくなるほど綺麗に感じた。アニメ映画としての演出も見事で、タイトルシーンの魅せ場では感動しすぎて声が出そうだった。

「行ってきます」「行ってらっしゃい」と言葉交わす日常のなんと幸せなことか。
突如として人々の日常を奪い去る神の意志のなんと気まぐれなことか。
黒く塗りつぶした日記帳の描写に心が痛んだ。
他人の「大丈夫」が無責任に聞こえることもある。どれだけ時間が経とうとも癒えない傷もあるかもしれない。
闇の中で自分を救ってくれるのは、自分が大丈夫だと証明してくれるのは誰なんだろう。

廃墟の声に耳を澄ませば、そこで生きてきた人々の幸せな日常が目に浮かぶ。
奪われてしまった日常を悼み、思いを馳せ、今この世にある愛おしい日常が一日でも一瞬でも長く続くように祈る。
今日の「行ってらっしゃい」に返す「ただいま」の言葉がありますように。
かしこみかしこみ、そのミミズ、常世にしばらくお返し申す!
ざわわ

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