ざわわ

シンドラーのリストのざわわのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.6
この映画を観たことは、私にとって一種の体験になった。それくらいリアルな描写に何度も息を呑んだ。
凄惨な歴史に基づく映画を作ることは、生半可な覚悟では許されないことだったろう。
ユダヤ人の大虐殺という重い題材と真摯に向き合い、この映画を作り上げたスピルバーグ監督に心からの敬意を。
「面白い」とか「感動した」とか単純な言葉では語れないが、本当に、素晴らしい映画だった。

お金は灰色、銃の光は白、光と影を表すように、人の顔は白と黒。
流れる人の血すら真黒に描かれるモノクロの世界の中で、“赤色”の服の少女の描写がひどく印象的で心を刺した。
オスカーの心が強く動かされたのを否が応でも感じる衝撃的な演出だった。

「給料が安いからユダヤ人を雇おう」
軍需に目をつけた事業が大成功し、巨万の富を得たオスカー。
彼はビジネスマンとして抜け目なく立ち回る一方で、目の前で起こる惨劇への疑問を感じ始める。
正義心と保身。金のために雇う人間、人間のために使う金。オスカーの葛藤や次第に変化する心情が見事に描かれている。

オスカーと対照的に描かれるアーモン・ゲートは、何人ものユダヤ人を虐殺する収容所の所長。
「ゲートも、戦争がなければ普通の男だ」と、オスカーは言う。
ユダヤ人であるヘレンに愛情を抱いていたゲートが愛を伝えながら暴力を振るう描写に、
戦争の洗脳が狂わせた人間が、自身の中に抱く矛盾と歪みを垣間見た。

誰もが自分を守るのに精一杯だった時代に、自分の心に従って行動することに、どれほどの勇気が必要だったろう。
600万人ものユダヤ人が亡くなった。“シンドラーのリスト”が、1100人以上の命を救ったという歴史は、単純な美談としては語れない。
ただ、暗澹たる時代にも人の良心と立場を超えた信頼関係は存在し、たしかな救いを生んだ。
戦争で亡くなったすべての方の冥福と平和を祈らずにはいられない。
ざわわ

ざわわ