HicK

すずめの戸締まりのHicKのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.7
《逆にもっと震災テーマを強調してくれても良い》

【災害ファンタジー】
もし事前情報無しで鑑賞してたら、3.11をファンタジーと絡めた物語にもっと複雑な気持ちになってたかも。でも、「風化すると被害が繰り返される」という設定や、幼少期のすずめを通して被災者の背中を押すような描写があり、今作の意義も感じた。裏テーマのような扱いでファンタジーの影に隠れてしまったのがちょっともったいなくも思うけど。

【ロードムービー】
ロードムービー展開は古き良き日本の温かさに溢れてた。特にオープンカーの芹澤は、シリアスな後半に絶妙な塩梅のコメディー要素をもたらしてくれて、とても良いアクセントだった。懐メロ多用の日本版ピータークイル。伊東沙莉の演じたキャラも彼女の声と合っていて好きだった。

ただ、芹澤含め道中で出会う人物たちをもう少し全体的なテーマ性と結びつけて欲しかった。震災のトラウマから立ちあがろうとするすずめに必要な"ピース"である事を更に強調してくれればもっと心に残ったかも。「様々な被災者の現在を見て、過去と向かい合うすずめ」とかもっと見たい。

【ダイジン】
ダイジンの矛盾や行動の不透明さは自分なりに解釈したものの、もう少しだけストレートに描いて欲しかったかな。他にも要石や閉じ師に纏わる疑問も。ちょっとファンタジー面に気をとらわれたので、好みで言えば、ある程度分かりやすくして、その分、震災テーマを前面に出した物語を見たい。

【画面演出】
毎度テンプレの感想になってしまうが絵が綺麗。毎回すごい。背景が好き。今回はたぶん3Dの使用が増えてるおかげか、実写性を保ちながら更に自由になったカメラワークが印象的。観覧車から出てくるミミズとか、被写体の周りをぐるっと回る撮り方は3Dあってこそ。美しかった。

【その他】
・やっぱり深津絵里、好き。
・序盤のジャズいいね。
・焼きうどん食べる時、ソウタに座るのはなぜ?
・何で芹澤は「旅立ちにはこの曲でしょ?」って言って学生証を差し出したの?
・音が違っても緊急地震速報はゾッとする。

【総括】
謎を追う展開はワクワクしながら見れた。「風化が悲劇を招く」「そこに居た人々を思い出す事で厄災を閉じ込める」という物語の土台は好きだった。その中で描かれていた「人と人との助け合い」「最後に自分の背中を押してあげれるのは自分自身」などなど、被災者への励ましやこれから被災者になってしまうかもしれない私たちに向けた大切なメッセージも込められていた。

ただ、やっぱりこのテーマ性だったらもっと前面に出して欲しかった。男女の青春ファンタジーをメインに置いたせいで、「実際の震災を扱った舞台設定」との相性の悪さも正直感じてしまった。
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