スカポンタンバイク

マザーズのスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

マザーズ(2016年製作の映画)
4.5
これは面白かったなぁ。

アリ・アッバシ監督のデビュー作という事で期待してようやくみたのだが、とにかく演出力が凄かった。本当に何でも撮れる人だなぁって思った。
マタニティ系ホラーだと、赤ん坊が悪魔だったとかが結構あるが、今作はそこが最後まで曖昧なのが良い。結局、本当に悪魔かどうかというのは重要ではないのだと思った。
赤ん坊というと、異論反論受けつけずの勢いで「無垢」であり、「大切にされるべき」存在として扱われるわけだが、では実際そうして守られる「赤ん坊とはどういう人なのか?」と聞かれると答えられる人はいないんじゃないだろうか。赤ん坊は、当然のことながら言語によって内面を伝える手段を持ち合わせていない。表情にしたって、笑うか泣くかの2パターンの極端なもの。
それは冷静に考えると、ホラー映画の怪物に存在と近いと思う。怪物にだって、ギレルモ・デル・トロ的な視線があるように、単に恐怖の対象というだけではない。とすると一層、赤ん坊という存在を「よく分からない怪物のようなもの」として表現される事は理にかなっており、それをわざわざ悪魔の子としない所も上手いと思った。赤ん坊は、赤ん坊というだけで十分悪魔的なのだ。
そのため、今作は特に超常現象的な事が起こるわけでもなく、妊婦さんとそれを取り巻く人々の日常が全編にわたって繰り広げられる。しかし、前述した演出力が、全編にわたって違和感・不穏さを感じさせるものとなっており、キャラクターの一つ一つのアクションに日常の普遍性と異常性の両方を同時に感じさせてくる。母の愛は普遍的なのか異常なのか、母子を裏切る父は異常なのか仕方がないのか、妊婦の苦しみは「あるある」で片付けられるものなのか。
色んな日常を多方面に考えさせてくる見事な傑作だなぁと思いました。