こなつ

エンパイア・オブ・ライトのこなつのレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
4.0
1980年代初頭のイギリス南岸の海辺の町マーゲイト、そこに佇む映画館「エンパイア劇場」が舞台。監督は、名匠サム・メンデス

1980年代イギリスの不安定な経済社会を背景に、その老舗映画館は、不況の苦しみにあえぐ人々の心の拠り所、癒しの場所であった。

映画館の扉や窓や階段、中央で売られているカラフルなお菓子、まるでスクリーンから香りがするようなポップコーン、半券のもぎり、、冒頭、館内の照明のスイッチを入れて回る主人公ヒラリー、ここは私達を夢のある光の世界に導いてくれる温かな場所なのだと感じさせてくれた印象的な幕開けだった。

この映画館を舞台に、過去の辛い経験から心を閉ざし、うつ病を患っている中年女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と夢を諦めて映画館で働くことを決めた黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)とが歳の差、人種の違いを超えて心通わせ、惹かれていく物語。

4つのスクリーンのうち、2つしか稼働していないエンパイア映画館。それでもそこに佇んでいるだけで絵になる美しさ。社会的な暗い状況から人々を救ってくれる映画に最大限の称賛が込められている。

映写技師ノーマン(トビー・ジョーンズ)の味のある職人気質の名演が心に残る。さすがオスカー女優、オリヴィア・コールマンの圧巻の演技が素晴らしかった。

人は誰しも孤独感と向き合って生きている。闇があるように光もある。そして映画の中で出会う光に癒しを求め、生きる希望を見いだすことが出来るのは時代が変わっても同じだ。ヒラリーが初めて観た映画に涙を流していたのがとても印象的。何とも映画愛に溢れていた作品だった。

映画を観た帰り道、繁華街の人波を抜けながら、ここが海沿いだったらどんなに素敵だろうと思った。
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